AEVE ENDING
翌朝。
天使―――否、真鶸の笑顔に起こされて、倫子の体調は全快した。
高く囀ずる真鶸の声は、最高の目覚ましだった。
「人の弟を目覚まし扱いしないでくれる」
バシッ。
(ほんと最高の朝だよ。…こいつさえいなければな)
殴られた頬を抑え、それを施した人物を睨みつける。
雲雀は冷ややかな表情のまま倫子を一瞥して、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「え、どこ行、…?」
引き留めたがしかし、時既に遅し。
鍛えられた細い背中はするりとドアの向こう側へと消えてしまった。
(…聞こえててわざと無視してんな、アイツ)
毛嫌いしあっていた当初は、それこそ毎秒毎秒それの繰り返しだったが、最近ではなかなかなかったことだっただけに少なからずショックかもしれない。
(…って、アホか、私は)
仕方なしに制服を着込み、キッチンでなにやらゴソゴソしている真鶸を探す。
「まひわー、あいつ、どこ行ったの?」
ひょいと覗けば、真鶸は紅茶をカップに注いでいるところだった。
倫子がよく使うインスタント用の紅茶ではなく、きちんと茶葉を孵して……本格的だ。
「え、兄様、出て行かれたんですか?」
目を丸くした真鶸の手元には三つのティーカップ。
まさか真鶸も、こんな時間帯に雲雀が出ていくとは考えていなかったらしい。
「折角、兄様の好きな茶葉を淹れたのに…」
しゅんとしてしまった真鶸に、思わず頬が緩む。
兄ちゃん子なのは最初からわかっていたが、あの雲雀をここまで慕うとは。
「きっとすぐ戻るよ。私にもある?いい薫りで飲みたくなった」
こう言えば、素直に喜んでくれるかと思い、自分の分もあると知ってわざとそう口にする。
「あ、ありがとう、ございます、倫子さん」
照れてしまった。
顔を真っ赤にして俯いたまま、ぼそぼそ。
(かーわーいーいー)
倫子のツボをピンポイントで突いてくるのだから、この弟もある意味、あの兄に負けていない。