AEVE ENDING





「あの、僕はっ―――」

そんな真鶸に雲雀が微笑を向ける。

初めて見るような、意地の悪さをかすりもしない純粋な笑顔で、奴はこう言い放った。



「マスコット」


マスコット:「共通する集団」をイメージしたキャラクター。
人、動物をモチーフにしたものが多く、実在の人物を指す場合もある。


…ぐすん。

真鶸の小さな鼻が鳴った。

憐れ、純情な弟は兄によってその輝かしい発展途上の道をマスコットなどという錯綜したイメージキャラクターとして歩まされる羽目になったのだった。


「…まぁ、でも、最初はそれでいいんじゃない?まだアダムとして覚醒したばっかだしさ、いきなりここのアダム集団に加わるのもキツイもんがあるよ。セクション中で実力も入り乱れてるし。しかも、真鶸はスキップして高等部にいるんだから、尚更」

明らかに肩を落としてしまった真鶸を慰める。
まさかマスコットとくるとは思わなかったが、詳しく話を聞けば、成長期間を見計らっての期限付き―――つまり、例の国際交流を終えるまでの特例措置だそうだ。
マスコットとして雲雀についていれば、箱舟がどのような場であるか第三者の目で見ることもできる。


「焦る前に、少し冷静になって自分が置かれた状況を見定めるのも勉強だよ」

兄らしく尤もなことを言う雲雀に、真鶸は顔を上げた。
うるんだ目が今にも飽和しそうで、倫子は気が気じゃなかった。



―――結局、倫子、雲雀、真鶸の三人で食堂に向かっているわけだが、「マスコット発言」からなかなか立ち直れず顔を上げない真鶸に、雲雀は冷徹な声を掛けた。


「落ち込む前に、その措置に感謝したらどう?」

雲雀に果たして兄が務まるのか甚だ疑問だったが、なかなかどうして「お兄ちゃん」をする。

まあ、相当なスパルタだが―――。



「兄様…」

そしてひねくれることを知らぬ愛すべき「弟」、真鶸である。

兄の厳しい台詞に素直に頷き、落ち込んでいた自分を叱咤するように兄へと謝罪する。
先程からひっきりなしに微笑ましくなっているのは、明らかに雲雀が真鶸効果で可愛さ二倍になってるからだ。



「なに笑ってるのさ」

バキッ。

訂正。

可愛さあまって憎さ百万倍。



< 770 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop