AEVE ENDING
「…弟の前で暴力はまずいんじゃないの?ニイサマ?」
皮肉を口にする倫子に、真鶸が慌てて駆け寄ってくる。
雲雀に殴られた倫子の頬に手を添えて、そりゃもう、食べちゃいたいくらい可愛い顔で心配するのだった。
「兄様ったら!」
きゃんと啼いて自分を庇う真鶸に、涎が垂れそうになる。
じゅる。
「近付かないほうがいいよ、真鶸。喰われるから」
バッチリ弟の危機を見透かしている雲雀にちゃらけて舌を出す。
そしたらまた殴られた。
そうこうしているうちに、食堂へと辿り着く。
いつもより早起きしたわりには、なんだかんだ出てくるのが遅くなってしまったせいで食堂は朝食をとりにきた生徒達でごった返していた。
しかし、心配はいらない。
―――カツリ。
雲雀の革靴が鳴る。
「雲雀様!」
まるでそれが合図だったかのように、ざわついていた生徒達が一斉に雲雀を見た。
「おはようございます!」
「雲雀様!」
なんだかいつもより雲雀崇拝ムードが高まっているような気がするのは気のせいだろうか。
別の意味で騒ぎ出した食堂を、雲雀は誰の挨拶に答えるでもなく突き進んでゆく。
倫子にとって意外だったのが真鶸だ。
兄同様、慣れたもので、皆が皆に律義に頭を下げながらも、雲雀の後に黙々とついていく。
「真鶸様、おはようございます!」
「なにかありましたら、どうぞお気軽にお声を掛けてください」
「不安もあるでしょうが、我々は真鶸様を歓迎しております!」
おぅおぅ、まるで王様とそれに跪く従者ではないか。
よくもそうプライドもなくへつらうことができるものだと感心してしまう。
―――或いは。
(崇拝してるのか、心から)
どちらにしろ倫子には理解できない。
したいとも思わないし、なによりそれを、雲雀と真鶸は望んでいないのだろう。