AEVE ENDING





麗しく玲瓏な、紛いの神に誰もが平伏す。


(あぁ、傷が疼くな…)

体中に走る施術の痕は憎しみだ。
腹を突き破ろうとする憎悪と嫌悪はまるで―――。




「橘さん」

考えに没頭していると、不意に視界を遮られた。
数歩先を進む雲雀達と倫子の間を隔て立つのは。


「誰だ、あんたら」

知り合いではない。

恐らくは雲雀信仰者であろう、東部の制服をきっちりと着込んだ男子生徒が三人。
首謀は三人だが、明らかに周辺からこちらを見ている数名もグルだろう。

またやっかみかと睨みつければ、案の定。


「…貴方はまだわかっていないようですね」

にこり、笑んだその顔に吐き気すら覚える。

何故、そこまで雲雀に傾倒するのか。

まともに会話したこともないだろうに。


「雲雀様のみならず弟君までたらしこむとは…。いい加減、貴方の無礼千万な態度を改めなくてはなりません」

誰ががたらしこむか、この自己陶酔男め。

「イヴである貴方にはわからないかもしれませんが、あの方の洗練されたオーラは何人たりとも触れることのできない絶対領域であり、聖域です。それを貴方のような成り損ないが土足で踏み荒らすなんて、罰当たりですよ」

諭すように語られるそれは、まるで呪いだ。

倫子にも彼らにも雲雀にも、無価値で無意味で、けれど、皆を強烈に縛りつける。



『唯一の神にならなければ意味はない』


亀裂が走る。


『忘れろ。橘倫子という名の人間は、もう存在せぬ』


目眩にすべてを投げ出したい。




「貴方は知るべきです」



あぁ、もう黙れ。

もう、散々だ。




「神を煩わす存在は、あってはならない」




(かみにならぬなら、しねばよい)

(きえてかまわぬ。かわりなどいくらでもきくのだぞ)


(そうさな、たとえば―――、)






『お前の妹はどうかね?』




バキッ。




「きゃあっ」

悲鳴が耳を突く。

煮えきった頭で理解できるのは、男を殴った右拳が痛むということだけ。

吹っ飛んだ男を一瞥して、まだ殴り足りないと疼く腕を抑えつけた。





< 772 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop