AEVE ENDING
麗しく玲瓏な、紛いの神に誰もが平伏す。
(あぁ、傷が疼くな…)
体中に走る施術の痕は憎しみだ。
腹を突き破ろうとする憎悪と嫌悪はまるで―――。
「橘さん」
考えに没頭していると、不意に視界を遮られた。
数歩先を進む雲雀達と倫子の間を隔て立つのは。
「誰だ、あんたら」
知り合いではない。
恐らくは雲雀信仰者であろう、東部の制服をきっちりと着込んだ男子生徒が三人。
首謀は三人だが、明らかに周辺からこちらを見ている数名もグルだろう。
またやっかみかと睨みつければ、案の定。
「…貴方はまだわかっていないようですね」
にこり、笑んだその顔に吐き気すら覚える。
何故、そこまで雲雀に傾倒するのか。
まともに会話したこともないだろうに。
「雲雀様のみならず弟君までたらしこむとは…。いい加減、貴方の無礼千万な態度を改めなくてはなりません」
誰ががたらしこむか、この自己陶酔男め。
「イヴである貴方にはわからないかもしれませんが、あの方の洗練されたオーラは何人たりとも触れることのできない絶対領域であり、聖域です。それを貴方のような成り損ないが土足で踏み荒らすなんて、罰当たりですよ」
諭すように語られるそれは、まるで呪いだ。
倫子にも彼らにも雲雀にも、無価値で無意味で、けれど、皆を強烈に縛りつける。
『唯一の神にならなければ意味はない』
亀裂が走る。
『忘れろ。橘倫子という名の人間は、もう存在せぬ』
目眩にすべてを投げ出したい。
「貴方は知るべきです」
あぁ、もう黙れ。
もう、散々だ。
「神を煩わす存在は、あってはならない」
(かみにならぬなら、しねばよい)
(きえてかまわぬ。かわりなどいくらでもきくのだぞ)
(そうさな、たとえば―――、)
『お前の妹はどうかね?』
バキッ。
「きゃあっ」
悲鳴が耳を突く。
煮えきった頭で理解できるのは、男を殴った右拳が痛むということだけ。
吹っ飛んだ男を一瞥して、まだ殴り足りないと疼く腕を抑えつけた。