AEVE ENDING
そうして雲雀は、苛立ちを隠さぬ声で言った。
「浅はかな真似は、見苦しいね」
思えば、雲雀自身が自らの信仰者にこうも感情を露にしたのは初めてだったかもしれない。
信仰者の彼らにとって、雲雀の影響力はそれこそ神の如し、絶対。
雲雀が死ねと言えば死ぬような連中もいる。
だからこそ雲雀は、今までなにも口にしなかった。
「橘を傍に置くのは僕の意思だよ。不満があるなら橘じゃなく、僕に言うことだね」
珍しく倫子を庇う。
なにを企んでいるのかと疑いながら、殴った男を見た。
そう強く殴ったつもりもなかったが、吹き飛ばされた状態のまま無様な姿で白目を向いていた。
(殴った…)
じんじんと神経に響く痛みは確かに自分のものであるのに、何故か殴ったのは己とは異なるもののように思える。
怒りに、我を失っていたのか。
(今まで、こんなことなかったのに)
「橘、行くよ」
倒れた男をぼんやりと眺めていた倫子を、雲雀が呼ぶ。
呼ばれるまま顔を上げた視界に映ったもの。
「―――…っ、」
その顔、なに。
なにかを嫌悪するような、或いは憐れむような、傷付いたような悲しむような、雲雀の、顔。
息が、止まるかと思った。
呼吸が止まれば、まだマシだったかもしれない。
(…そんな顔、するなよ)
拒絶されたような感覚に陥った。
その表情の裏になにを思うのか、倫子は知る術を持たない。
苛々する。
こうして痛みに耐えるしかない自分がひたすら、憐れで。
『己を憐れんでいれば、世話はない』
―――黙れよ。
『貴様はヒトであってはならなかったのだ』
―――黙れ黙れ黙れ。
『家族の血でも欲すというのか?バケモノめ』
―――黙れ。