AEVE ENDING
「一体、今までなにが…!」
ホロホロと今にも泣き出しそうな真鶸に破顔する。
かわいいなぁ、真鶸は。
「僕が見てきた限りでは、…偶然を装いグラスを投げつけられるとか、或いは中身をぶちまけられるとか、あぁ、一回、ガラス瓶で殴られてたこともあったっけ。…あとは階段から落とされるとか、干してた洗濯物を教室にぶちまけられるとか(そういう時は大抵雲雀の洗濯物は綺麗に畳んである。アイロン掛け済み)、今みたいに料理に異物が混入していたり、大体、頻繁にあるのは呼び出しを喰らってタコ殴りにされることかな。あと授業を免罪符に、やっぱりタコ殴り」
倫子の顎を掴んだまま雲雀がつらつらと連ねる。
「ひ、酷すぎる…!そんなの全然、面白くないです…!」
蒼白になって涙する真鶸が愛しい。
「みっちゃん」
真鶸に泣きつかれながら倫子が食事を進めていると、未だざわつく食堂に不愉快に間延びした声が響いた。
「…奥田」
見れば、依れた白衣が目に眩しい。
相変わらず趣味が良いのか悪いのかわからないネクタイをつけ、火のつかない煙草を咥えた奥田の姿。
「ん、顔色良くなったね」
倫子の額にひたり、手を当てながら顔を覗き込んでくる。
ひんやりと冷たい空気が火照った神経に直接触れたのは、きっと気のせいじゃない。
精神系能力の第一人者とも云える若きアダム、奥田たきおの名は伊達じゃないということだ。
「ちと話があるんだけど、先生とデートなんてどうよ?」
その誘い文句に、ああなにか問題が起きたのだとピンときた。
この男から「デート」の言葉がでた時は、大抵、深刻な事態だ。
「雲雀くん、ちいとこいつ借りんね」
ちゃらけて言いながら、雲雀にも真面目な視線を向けている。
雲雀はそれをやる気なく受け取りながら、奥田から視線を外した。
ふたりしてなんの会話をしているのか。
「真鶸、後でね」
ひとり話題に取り残されている真鶸の頭をできるだけ優しく撫でてから、食堂を後にした。