AEVE ENDING
「―――橘!」
雲雀に散々痛めつけられ、そのまま床に放置されていた倫子の耳に、酷く懐かしい声が聞こえてきた。
地獄に仏とはこのことだろうか。
だって、この声は。
「アミぃぃぃ!」
勢い良く飛び上がり、倫子は部屋の扉に飛びついた。
雲雀の姿は部屋にない。
いつの間に出ていったのか、姿形もなかった。
(このまま戻ってくるな!)
倫子は心底からそう望んだが、叶う筈もない願いだ。
「橘!」
扉を開ければ、大好きなアミの姿。
昨日まで四六時中一緒に居たというのに、なんだか久々に顔を見た気がする。
つい感極まって抱き付いた。
そんな彼女の心情を悟り、アミも快く倫子を受け止めてやる。
「あんた、大丈夫?」
何故かあちこちに傷が増えている親友にアミが目を丸くする。
「大丈夫じゃない。とりあえず、どうぞ」
そんなアミを部屋に招き入れ、暗くなったバルコニーへと案内した。
重い雲の隙間から、遥か彼方にあるという小さな星が見えることはない。
腐ったような臭いの潮風が吹いて、アミの長い髪を靡かせた。
「凄い部屋ね。しかもこの景色。海岸線が全部見渡せるんじゃない?」
バルコニーに出たアミは、意気揚々と目下の景色を楽しんでいる。
宿舎棟は浜の地盤よりはるか上に造られた建物なので、どの部屋からも素晴らしい景色が見えるが、此処からはまた格別だった。
明らかに、「特別」とされる部屋なのだろう。
「同い年のアダムにこの待遇って、いくらなんでも不公平よね」
アミはバルコニーの柵に手を置きながら、唇を尖らせて不平を洩らす。
(さすが、アミ。外見とカリスマに騙されない)
倫子は柵に乗り上げ、アミに感動の眼差しを向けた。
「で、うまくやれそう?」
しかしいつまでも甘ったれた空気で居るわけにもいかない。
アミから飛び出た無駄のない質問に、倫子は詰まった。
「…、」
その質問、リアル。
いま答えられる自信がない。
「…まだ性格もよく解らないからなぁ。史上最悪のエゴイストでサディストだってのは解ったけど……」
こんな短時間で、人ひとりを把握しきれるわけでもない。
なにせ。
「あちらさんに仲良くする気が微塵もないからね」
それにこちらも、本音を言えばあまり親しくなりたくない。