AEVE ENDING
「厄介なのはアナセスのカリスマ性もだけど、その能力」
非力な民がひれ伏す、力。
聞けば億単位の崇拝者を従えているらしいアナセスの言葉は絶対で、実際に死刑を言い渡された信者が自殺したとかしないとか。
とにかく、素晴らしくヒトを惹き付ける人物だという。
慈悲深く聰明、美しく近しい神を仰ぐのに、ヒトもアダムも関係ないのだ。
(慈悲深い女が死刑を宣告するか)
所詮、噂だ。
真か嘘か、信ずる前に実物を見極めなくては話にならない。
「彼女の能力は精神分解―――つまり、透視。しかもストッパーがある筈の同類…俺らアダムの胎内も心中も筒抜けらしいよ。しかも彼女がその気になって精神に侵入すれば、アダムでさえ抵抗なく倒れちゃうみたい。―――事実、反アナセス分子がひとり、未だ意識不明の重体だそうだ」
つまり。
(…彼女には、倫子が人工に造られたアダムだなんてこと、あっさり見通されちゃうわけだ)
テレパスで音を封じたのは、何者かに聞かれるのを防ぐためか。
神妙な顔をする奥田に、倫子は息を飲んだ。
暴かれることに関しての、畏れではなく。
『苦しい』
『たすけ、て…』
「ストッパーのあるアダムでさえそれよ。もし彼女と対峙すれば、倫子はどうなるか」
鍾鬼の時でさえ死にかけていたのに。
「あの鍾鬼くんでさえ、アナセスの下だからね」
怖いことを言う。
継ぎ接ぎが無駄に、疼いた。
壊れてしまうだろうか。
この紛いものの体は、神の前で。
「…っ」
―――ぞっとしない。
考えたくもない。
(あんな思い、もう二度としたくないのに)