AEVE ENDING
「倫子さん、どうしたんでしょうか」
酷く落ち込んだ声で真鶸が言う。
見れば、倫子は相変わらず砂丘の上に立ち尽くしたまま、動く気配すらない。
「…兄様、やっぱり倫子さんは部屋で寝ていたほうがいいんじゃ、」
その様子を気遣わしげに見上げる心優しい弟に、溜め息。
「大丈夫だよ。いつもの癇癪だから」
どうせまた、自分は汚いからどうのこうの考えていたのだろう。
こちらは彼女の準備―――なんの準備かなんて莫迦らしくて言えない―――が整うまで、これでもかと我慢しているのに。
なにせ毎日毎日一緒にいて、壁一枚隔てて鼾はかくは風呂で寝るわ―――、倫子はそれら雲雀の努力には全く以て気付いていないらしい。
(…一人で溜め込んで傷付いては、僕を拒絶する)
わかってはいるつもりだ。
倫子の過去を知ったからと言って、その痛みを身を以て体感したわけじゃない。
倫子の頭、心、体、は雲雀のものとは造りが違う。
(…怒りっぽくて傷付きやすい癖に)
そうして見ているこちらが疲れるまで過剰に反応する心が感じた痛みも悔やみも苦しみも知らない。
きっと味わおうなどと思うことすら、侮辱になる。
『だって、きたない』
そんなことじゃないんだ。
『あんたとは、一緒にいられない』
そんなこと、赦す筈がない。
『助けて、ひばり』
泣いて縋って詰って痛めつけて、向けられるものが殺意だって構わない。
『…ひばり』
なにより、僕が畏れているのは。
「兄様?」
こちらを覗き込む真鶸の声に、ハッとした。
(畏れてる?僕が、なにを?)
馬鹿らしくて馬鹿らしくて、頭が痛い。
「…兄様、倫子さんの様子、が」
今にも泣き出しそうな真鶸の視線の先―――、先程まで確かにそこに立っていた筈の倫子の姿が見えなくなっていた。
代わりに、数人のアダム達が群れをなしている。
(…またか)
最近、以前にも増して倫子が他のアダム…つまり雲雀の狂信者に絡まれるようになった。
理由は、明白。
(僕が、パートナー以上で接しているから)