AEVE ENDING
「倫子さん…っ」
砂に突っ伏したまま微動だにしないその姿に、真鶸は背筋がつ、と冷たくなるのを感じた。
まるでこちらの呼び声も聞こえていないようで、まるで、なにもかも機能していないようで。
「…倫子さ、」
肩に手を添えても動かない。
―――泣きたくなった。
(なんでなんでなんで、倫子さんがこんな目に。アダムの力が人より劣るだなんて、そんな理由、下らなすぎる)
初めて自分に向けられた意図のない真っ直ぐな笑顔は、暖かくて柔らかくて。
「これはこれは、真鶸殿。貴方も大変だ。崇高な兄上のパートナーがイヴだったばかりに、余計な足枷をつけられましたな」
耳障りな声は頭上から。
教師という立場である彼の、あまりの情けなさに反論しようと顔を上げる―――。
「…、」
そうして自分に、否、倫子に注がれる多数の視線に、背筋が凍りついた。
(こわい…―――)
人の悪意や狡猾さ、それらには免疫がない。
ないけれどこれは、果たしてこの暖かなヒトに向けられていい視線だろうか。
底冷えするそれは排他的で、なにより侮蔑を含み、まるで彼女をヒトとも思わないような、目で。
―――あぁ、倫子さんを貶めようとしてる。
そんな落ちこぼれ、我々には必要ないと、彼らは声高らかに叫んでいる。
『傲慢なのは、アダムも人間も変わらないからね』
過去、そう洩らした兄の、酷く疲れきった様子が、網膜に焼き付いていた。
そうだいつだって、兄は憂いていた。
『神の力を得た人類の亜種―――、いや、進化系とも云える誇り高きアダムの名に恥じぬ功績と地位を、なによりもこの世界の祝福を。我々はアダムだ。人類などという意地汚い生き物とは造りも権利も美しさも違う』
幾田桐生が口癖のように繰り返していたそれに、いつも軽蔑の眼差しを向けていたのは誰でもない、雲雀だった。
その理由が今やっと、わかった気がする。