AEVE ENDING
(こ、怖すぎる…!)
あぁ、けれど、倫子はどうやら元に戻ったらしい。
安心してほうと息を吐いた真鶸の横に、雲雀が並ぶ。
その視線も鍾鬼の視線も倫子に向けられていた。
ふたりともまるで、憐れむかのように、或いは慈しむかのように、眼球を瞬かせている。
(倫子さん…?)
砂に足を竦われ転ぶ彼女はあまりにも無邪気で凡庸で、その姿はありふれたものなのに。
けれど、僕は見てしまったんだ。
揺れるシャツから覗く腕や脚や首筋、髪の付け根、耳裏、踵―――至るところに走る、残酷たる赤黒い細い荊。
(ああ、貴方は、誰)
目眩がした。
吐きたくなるほどの嫌悪感が足元から沸き上がる。
背皮を剥がれるような感覚が全身を巡り、指が震えた。
「…っ、」
―――かくり。
「…真鶸?」
膝から砂に転がった真鶸を訝しむ声。
兄様が覗き込んでいる―――大丈夫だと言いたいのに、唇はただ震えただけだった。
がくり、がくり。
関節が震えていた。
それこそ筋肉が言うことを聞かないまま好き勝手に跳ねているように、激痛と共に全身が震える。
雲雀が真鶸を抱き起こす。
息が、できない。
兄の姿が、頼りなく揺れていた。
(―――違う、震えているのは、僕の視界)
「ま、ひわ」
遠くにいる筈の倫子の声が、聞こえた気がした。