AEVE ENDING





「―――真鶸…、」

雲雀の声が耳に届いた。

常とは違う訝しげな声に、一先ず真醍との抗戦をやめ、そちらを見やれば。


「あれ、どうしたんかな、あのガキンチョ」

雲雀に抱き抱えられるような形で、ひくりと跳ねている小さな体―――。




「…、」

あぁ、息が。




『―――罪だ』

息が。

『神になる代償だ。安いものだろう』

息が、できない。





「…ま、ひわ」

喉が壊れてしまった。
そう思ったのは、この枯れた声のせい。

気付けば、雲雀から真鶸をひったくり抱き上げて、波間へと向かっていた。

砂に足を取られる倫子を支えるように雲雀が腕を伸ばす。


ひくり。

触れたまっさらな掌に、心臓が震える。


「どういうこと?」

冷静に問うてくる雲雀に視線を向ける。
欺くな、と語る目が痛い、怖い、辛い。


「…発作だ」

今は、それだけ。
ざらりと波の狭間に真鶸を横たえる。
周囲の無遠慮な視線が気になるが、今は構ってはいられなかった。


「…っ、ぁ、っ」

眼下の真鶸に意識はない。

呼吸困難に加え、全筋肉の伸縮で激痛を感じている筈だ。
細胞を再構築する痛みは、意識があって耐えられるものではない。


「どうする気?」

雲雀を無視して、波に沈み、そのままヘドロの浮いた海水を口に含む。
周囲から洩れた嫌悪も露な声など無視して、真鶸に口付けた―――。



こくり。

喉を反らせ鼻を摘まみ、異臭を放つ醜悪なそれを、流し込む。

くつり、…。

離れた唇から伸びた海水か唾液かが音を立てて千切れた。


「ッゲホ、」

汚染された海水は致死に至る毒となる。
胸が焼ける痛みに堪えながら、もう一度口に含み再び真鶸に口移しで流し込んだ。

頭上から感じる視線に、涙が滲む。

その高尚たる目に、どれほど無様に映っているか。




「―――…っ、!」

こくりと喉を鳴らした真鶸の目が見開かれた。

焼けつくような痛みと生臭さに噎せ、しかし折角流し込んだそれを吐き出させないよう、その小さな口を掌で塞ぐ。




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