AEVE ENDING




「あんた、また居残り?」

彼女の名は、アミ。
クラスは違うが、気の置けないルームメイトであり、互いにアダムとして箱舟に収容される前からの友人である。

「あんな短い時間で習得しろっていうほうが無理」

サイレントクラスは三十分で終わる。
なにせ私達レベルのテレパスと云えば、マジックに等しい。
そんなものに時間を掛ける必要はない。

寧ろ、掛けずに済むのだ。
一般的な常識として。

大体のアダムが、月に三回程度の授業でその力をものにする。
けれど私は、箱舟に収容されて早二年。テレパスは未だにうまくない。

「普通、広範囲のテレパスはそこまで難しくないのだけどねぇ。思考を飛ばす先をひとつに絞らずに、滅茶苦茶に弾き飛ばしちゃえばいいわけだし」

アミが昼食のサンドイッチを摘みながら私を見た。

そう。方向性を定めず、床の上でビー玉をばらまくイメージすればいいだけ。

それなのに私は、それが出来ない。
つまり私は、この箱舟において、いや、全アダムにおいて、イレギュラー(規格外)なのである。

勿論、アダムには個性もあり、適性不適性もあるわけだから、能力によっては「神」と呼ばれる者も在れば、「落ちこぼれ」と呼ばれる者もいるわけで。

「落ちこぼれ」は、侮蔑の意味を込めて「イヴ」と呼ばれている。

そして私は、自他共に認めるこの西部箱舟…いや、全アダムきっての、「落ちこぼれ」だった。


「…アミは、テレパスで覚醒したんだっけ」
「そうよ。あん時は最悪だったわ」

アミは私より、一年早くアダムとして目覚めた。

アダムの能力は未知数。つまり、能力の覚醒時期も個々で異なる。
赤ん坊の頃からサイコキシネスを扱う者もいれば、成人してから突然、能力に目覚める者もいる。

人類初のアダムと云われている幾田慶造は、七十七歳で発症したらしい。

そしてアダムとして目覚めたからには、内に秘められた能力をコントロールする義務が課せられる。
野放しにすれば、使い方を知らないまま力を暴走させる危険性がある為、アダムと判断された人間は本人の意志に関係なく箱舟での教育を強いられるのだ。

アミも私も、故郷は別にある。



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