AEVE ENDING
「じゃあ、帰るね」
そう言ってアミがバルコニーから部屋に入り、雲雀と二言三言言葉を交わす。
「お邪魔しました」
先程の倫子の声には反応すら示さなかった雲雀が、睫毛だけ瞬かせた。
「…話は済んだの?」
「お陰様で」
「そう」
笑みを浮かべるアミに、無表情の雲雀。しかし。
アレ?
目の前で繰り広げられる穏やかとも言えるふたりの会話に、倫子が感じるのは違和感。
「じゃあね、倫子」
「…うん、ありがと」
にたりと笑い合い、また互いの拳をごっつんこさせ、明日からのセクションに気合いを入れて、別れた。
そしてアミを見送り、倫子の第一声は。
「…ねぇ」
ベッドに座る雲雀に目をやり、言いにくそうに倫子は眉を寄せる。
「…態度、ちがくね?」
突拍子のないその言葉に雲雀は意図が掴めず顔を傾げた。
やはり頭が弱いのだろうかか、会話に脈絡が感じ取れない。
「アミと私に対する態度に、甘口と辛口くらい差があるんじゃねーの」
そんなことを思われているとは露とも思わない倫子は、不愉快そうに唇を真一文字に結びつけた。
ミネラルウォーターの瓶をベッド脇のチェス板に置き、雲雀は首を傾げてみせる。
「彼女は優秀だから」
そんなことも解らないの、と言外で伝えるように。
「はぁ?」
しかし倫子には意図が掴めず、今度は倫子が唸る番だった。
「吠えるしか能のない愚か者に対する態度より、少しは敬意を払わなきゃ」
いけしゃあしゃあ。
なんて腹が立つ男だ。
―――が、アミに無礼な態度を取られるより、ずっとマシだと思った。
例え自分が心底から見下されているとしても、マシだ。…多分。
「まぁ、いいけど」
こいつとの生活は、きっと自己犠牲に尽きるな、と倫子は直感した。
なんだか慣れないことばかりで、随分と疲れた気がする。
悟ってしまったから、尚更。
(風呂に入って、今日はもう休もう)
身体を温めれば、きっと磨り減った精神も癒される―――そう考えて、倫子はハタと雲雀を見やった。
『修羅も汗を掻くのね』
部屋を出る際、アミがくすりと倫子に伝えた言葉が蘇る。
「…なに」
雲雀は億劫そうだ。
瞼を上げないまま、柔らかそうな唇だけが動く。
「あんた、先に風呂入りなよ」
そんな雲雀に、気付けば倫子はそう言い放っていた。