AEVE ENDING
「すぐに透析に掛けて原因を探った。その頃にはもう、倫子は危篤状態。心肺停止も時間の問題で、なにより、体の内側の破壊が目立った」
探りに探って蓋を開けてみれば、簡単なこと。
「…例の薬は開発者が思うよりずっと強力で凶悪だったわけ。諸刃の剣ってやつ」
なにより、継続的に摂取していた倫子は堪らない。
「回復していた筈の筋肉はボロボロ、やっとヒトに見えてきた外見は屍に逆戻り。毎日毎日毎時毎秒、体調不良どころじゃない。嘔吐下痢腹痛吐血痙攣呼吸困難心肺停止、意識の混濁、記憶障害……」
あまりの苦痛にもう声も出せない状態だった。
そんな気力も体力もない。
ただ爛々と活力に満ちているのは、産まれ変わった修羅の細胞のみ。
―――おかしな現象だった。
細胞は生き、しかしその他の器官は死んでいく。
実際、そんなこと有り得る筈もないのに。
「…その薬は、ただただ修羅の細胞にだけ、反応してたんだ」
だからこそ、倫子自身の細胞はその副作用に呆気なく破れ、そのまま死骸となって修羅に取り込まれていく。
内に飼う獣に胎内から喰い殺される恐怖―――そんなもの想像してもわからない。
「真っ白な部屋で、死にかけた蟲みたいに小さくなって、痛みが過ぎるのをただ、待っていた」
(―――或いは、終わりを待ち望んでいたのか)
「…耐えたよ、倫子は。常人じゃあ最初の発作で自殺してたかもしれない」
それほど、辛く深く暗く、残酷で粘質な毒。
「まあ、それ以前の人体実験も酷かったからね。体が痛みに慣れてたのかも………」
ダンッ。
そこまで言った奥田を遮ったのは、床が蹴り破られる爆音だった。
常は見せない怒り狂った冷たい視線を奥田に向けたまま、蹴破った床から脚を引き抜く―――真醍は、震えていた。
怒りで、だ。
「…慣れるわけ、ねぇだろ」
そんなものに、あの小さな体が。
―――無邪気に笑う影でどれほど耐えてきた?
「…、」
怒りをまともにぶつけられながら、奥田は暫し目を見開いて、けれどすぐ、微笑って見せた。
疲れきった目元を緩め、今にも泣き出してしまいそうなほど、作り損なった笑顔で。
「そうだね…」
だからこそ、あの子は今、生きている。