AEVE ENDING
「そうだね…」
だからこそ、あの子は今、生きている。
俯く奥田に視線を向けながら、雲雀の意識は随分と遠くへ触手を伸ばしていた。
無意識、だったのかもしれない。
(あぁ、泣いてる…)
鼓膜を震わせる嗚咽に混じるのは、後悔と贖罪。
真鶸を抱き上げる際、視線の高さが同じになった倫子は、今にも蕩けそうな目で、雲雀を見ていた。
震える唇を躊躇いがちに開き、赤い舌すら泣いているようで。
『…ごめん』
深く謝罪したその音はあまりに弱々しく、だからこそ罪悪は、非は、こちらにあるのだと明言していた。
震える睫毛が、あんまり悲しそうに、泣くから。
「倫子はね、一度だって死にたいと洩らしたことはなかったんだよ」
神に背く実験の最中、同じ種族である筈のヒトにより、脳を腹を割かれ、内臓を喰い潰され試験管にサンプルとして飾られる。
実態は、死んだも当然だった。
「どれだけ辛かろうがキツかろうが、死にたいとは、俺の前では一度だって…」
それが逆に痛ましさを深めていた。
それでは影で、どれほどの苦痛を感じているのか。
―――奥田、死なせて。
「実験の重ね過ぎによる筋肉の過度な伸縮で異形になった時だって、言わなかった」
息をしているのかいないのか。
ピンク色の皮膚が上下する様だけが、証。
全てを喰い荒らされて尚、気丈に前を向いていた少女が。
「…薬の副作用が起きて208日目」
それは、突然だった。
苦痛にもがき苦しんでいた倫子が、部屋から忽然と姿を消したのだ。
それこそ、奥田の精神系キネシスにすらひっかからないほど微弱な力で、タイミングで、瞬間に、テレポートした。
「…無意識だったんだよ。しようと思ってもできるもんじゃないし、なにより弱体化した体で、そんな力を使えばどうなるか、倫子自身が一番よくわかってた」
倫子自身にすら目的地などわからないテレポート。
どこに飛んだかなんて、わかりゃしない。
「―――ヒトでもアダムでもない。どちらでもないから、俺のセンサーにも引っかからなかった」
俯きながら語る奥田はまるで懺悔しているかのように瞳を曇らせていた。
―――懺悔。
きっと、この男は求めているのだ。