AEVE ENDING
「…結局、待つしかなかった。捜索隊を出したところで、見つかるわけもなかったからね」
待って待って待って、翌日。
そう、翌日には、倫子はもとの部屋に何事もなかったかのように存在していた。
『―――どこに、行ってたの』
そう尋ねた自分に向けられたあの目が、今でも忘れられない。
「…初めて、憎まれているのだと教えられた気がした」
―――唯一、気安く対峙できる研究者としての俺は、そう、ただそれだけであって。
「あいつが素直に笑うから、忘れてた」
俺がこの手でなにをしたか。
他の研究員達となにひとつ変わらない。
彼らと肩を並べ、倫子をモルモットの如く磔にし、その白い腹を裂き、内臓を掻き分け、脳味噌を覗き、筋肉を引き千切り、泣き言を塞いだ。
(下手に生易しい言葉を掛けたぶん、誰より性質が悪かったのは、俺だ)
「…帰ってきた倫子はどこかおかしかった。発作は以前と変わらず起きるのに、叫びも呻きも泣きもしない。ただ床に横たわって、どこかを見ていた」
―――死んだのか、問うたのは誰だったか。
「…そこにはもう、気丈な倫子なんか存在していなかった」
傷だらけになりながら、それでも、笑っていたのに。
毎日毎日、空っぽな目でなにかを見てた―――なにを見ていたかなんて、愚問過ぎる。
「テレポートした先でなにがあったと尋ねても、なにも語りはしなかった」
それなのに。
ただ一言、そう、たった一言、枯れた唇から吐き出された言葉は。
―――奥田、死なせて。
「…後悔したよ」
なにより今更だと、嘲笑すら浮かべて。
「あんなちっこい体であれだけの負荷を負いながら、それ以上に苦しめながら、それでもまだ足りないと、更に痛めつけて」
それなのに、相変わらず笑っているから、だから。
見ないふりをしてた。
少しずつ少しずつ、螺子が狂っていくのを。