AEVE ENDING
「死にたい死にたい死にたい死にたい」
まるで呪文のように繰り返されるそれは絶望的で、虚無で、痛ましく、なにより己を恥じていた。
―――こんな体、こんな頭、こんな中身、砂になれば、いい。
狂ったように、外へ飛び出してはしゃがみこみ砂に埋もれ、醜い我が身を隠そうとする。
「発作が始まって240日目。解決策も緩和策もないままで、倫子はただ弱っていった」
声は既に出ず、ヘモグロビンが減少し続ける体は死体のように真っ青で、爪や唇、粘膜の赤みすら薄くなって。
「もう、皆、諦めていた」
『―――薬物投与は既に取り止めているのだろう?回復の見込みはないのか?』
『―――最初の破壊範囲が広すぎたんだ。副作用の予兆が起きた頃には、既に手遅れだっただろう』
『―――折角の完成作品を手離すのは惜しいが、壊れては仕方あるまい』
『―――これ以上、あんなものに費用を費やすのも馬鹿らしい』
倫子の処置を会議する場で、「橘 倫子」の名は一度たりとも出てこなかった。
研究者達の皆が皆、「倫子」の苦痛など知る由もなかったのだ。
「…すぐさま倫子の活動停止が命じられたよ」
俺は、それで良かったのだと思った。
「そうなれば、あいつはやっと解放されるんだと、最後まで、甘えたことを…」
手向けのつもりで研究棟に隣接する海へと連れ出してやった。
自分に下された裁決を、倫子は知っているようだった。
「…海に沈みたいと、泣いたよ」
あんまり静かに泣くから、憐れで憐れで愛しくて、規約を破って倫子に従った。
「発作に見舞われ、ガタガタになった体を静かに沈めていった。汚濁した海に、融けてゆくみたいに」
暗くたゆたう死の海に。
最期の最期まで苦しみながら逝くのか。
―――神よ。
祈ったことなど一度だってないくせに、その空虚に満ちた背中を見つめながら確かに神に救いを求めていた。
それは、恥ずべき行為だとわかっているのに。