AEVE ENDING
「…その時だよ、」
海に姿が消える瞬間、ガチガチに震えていた体が、急に震えるのをやめた。
『―――倫子?』
訝しみながらヘドロのなかへと足を踏み入れる。
慌てて駆け込めば、蒼白だった倫子の頬に赤みが差していた。
倫子も、驚いている。
目を見開きながら、ひくりと喉を鳴らす様に、驚愕した。
『痛く、ない…』
「…驚いたよ。まさかあの海水が緩和剤になるなんて、誰も予想してなかった」
そうしてそれが判明してすぐ、それを基に薬を開発して倫子に投与した。
「緩和剤として、倫子の体を蝕んでいた薬と巧い具合に調和しあった。胎内破壊は止まり、そこに別の薬を投与して回復を図る―――」
効果は、抜群。
たまに、ほんのたまに軽い発作に見舞われても、大事には至らない。
(―――あぁ、あの時の)
そうして雲雀が思い出したのは、鐘鬼が留学する前の、浜辺での一件。
「…んーま、海水自体は毒だからね。飲む際にはとんでもない激痛が走るんだけど」
やっと普段の調子を取り戻した奥田をよそに、ベッドに眠る真鶸を眺めながら鐘鬼が軽く頷く。
「…橘は、小僧を助けようとして、海水を」
異様な光景のわけはこれか。
毒水はつまり、倫子と真鶸にとって妙薬になる。
「…なあ、ってこたあ、つまり」
真醍が言いにくそうに雲雀を見た。
珍しく気を遣っているらしい様子に嘆息しながら。
「…そういうことだろうね」
真鶸は倫子と同じ、人工のアダムということ。
そう言った雲雀に、奥田が困ったように口を閉じる。