AEVE ENDING
「…君から入れば」
何故、さきの会話の流れからしてそう来るのか、雲雀には全く理解できない。
「や、別にどっちでもいいけど、あんた汗掻いてるし、風邪引くかもだし、そしたら私が看病しなきゃならないし」
先に入れ、と一番風呂を譲られたにも関わらず、倫子は尚も食い下がった。
「…喧嘩、売ってるの?」
もっともである。
「優しさにちょっとトゲが見え隠れしただけじゃん。そうツンケンすんなよ」
倫子はそう言い捨ててからバスルームに向かうと、何やらゴソゴソし始めた。
雲雀はそれを訝しみながらも、再びベッドの上で眼を閉じる。
今までずっとひとりだったせいか、自分以外の動線を感じ取ることに敏感になっていた。
(落ち着けやしない…)
自分のリズムで生活できないなんて、頭がおかしくなりそう。
そんなことを考えながらやはり微睡んでいると、閉じた視界越し、頭上に影が掛かったのが解った。
「おい」
ゆっくりと瞼を開ければ、自分を見下ろしている平凡な倫子の顔。
「風呂の支度、済んだよ。入ってきなよ」
…甲斐甲斐しいったら、ない。
「ねぇ」
至近距離で覗きこまれながら、思わず口を開いた。
「君こそ態度が違う。急にお節介になって、気持ち悪い」
「……今のは聞き流してやるから、早く入れよ」
仲良くする努力というより、アミとの共同生活で身に付けた甲斐甲斐しさが発揮されただけ。
倫子はあくまでそれだけだと言い張っている。
「このくらい普通じゃないの?ほら、早く入ってきなよ。夕飯、食いっぱぐれるよ」
あんた友達いないからわかんないんだよ、とは口が裂けても言えない倫子であった。
とりあえず雲雀の腕を引けば、雲雀は妙なものでも見るかのようにこちらを見ている。
「…なにさ」
「いいや、別になにも」
そう素っ気なく言い放つと、雲雀は仕方なく立ち上がって奥のバスルームへと消えた。