AEVE ENDING
「…痛いよ」
バシリ。
殴り返せば、小さな頭は簡単に跳ねて背後の柱へとぶつかった。
「…、」
無言のままふらり、立ち上がったかと思えば、左腕を勢いよく振り上げてくる。
ヒュ、と耳鳴りがするほどのそれを片手で受け止めれば。
「…なんで、」
俯いたままの、ざんばらな髪に隠れた顔からそう絞り出された。
その体は蒼く鈍い怒りに満ちて、自らを焼死させてしまいそうなほど。
「…どうして、そんな普通に、」
震える唇は雲雀を非難しながらしかし、責めているのは自分自身なのだろう。
行き場のない自己嫌悪に陥りながら、喰われまいと踏ん張っている。
「…奥田から、聞いただろうが」
悲痛を抑え込む努力は、無駄だっていうのに。
―――ねぇ、君はなにを畏れているの?
「それで」
口を突いて出た、自分でも驚くほど怒気に満ちた声に、倫子が弾かれたように顔を上げる。
―――そうだよ、僕を見ていれば、他を見る必要なんてないんだ。
困惑に満ちていながら、しかし怒っているのか悲しんでいるのか、ない混ぜに揺れる網膜がいじらしい。
「…それで、君が懺悔したところでなんになるっていうの」
自分でも、冷たいと思う。
傷心の彼女に―――これ以上傷付く必要などないくらい傷だらけの彼女を、更に追い立てるような言葉を選ぶなんて。
(…でも、)
生憎、生温いのは嫌いだ。
「君が嘆いたって真鶸の体がもとに戻るわけじゃない。なにを悲しんでいるの?なにを畏れているの?真鶸に、自分の罪を感じてるの?」
あぁ、狡いな、こんな言い方。
見る見るうちに揺らいでいく安っぽい眼球が、憤り顕に釣り上がる。
そうだよ、橘、怒りなよ。