AEVE ENDING
「アダムであろうがヒトであろうが、真鶸は真鶸だ」
―――君が、君であるようにね。
小さく、そう吐き出していた。
倫子は雲雀を見上げたまま、ひくり、喉を鳴らす。
だって。
唇が、そう動いた。
「だって、だって、真鶸は、あんな真っ白できれいなのに、あんな、傷付いていい子じゃ、な、ないのに。私が、私がもっと考えていたら、もっと、もっと深刻に考えてたら、ま、ひわは、真鶸は、」
私と同じ、どっちつかずにならなくて済んだのに。
無意味な境界線に、泣かずに済んだのに。
そう続けられる筈だった言葉を、雲雀が塞いだ。
縋るように石柱へと背を預けていた倫子を覆うように、口付けて。
―――この傷付いた生き物を、僕はどうしたいのだろう。
「…っ、」
緩く触れたままの唇が震えた。
ねぇ。
ねぇ、橘。
「どうして、…君が泣くのさ」
傷付いて傷付いて傷付いて傷付いて傷付いて傷付いて傷付いて、行き場がないほど傷付いているのは他の誰でもない君なのに。
それなのに、まだ足りないっていうの?
なにより狭間で苦しんでいるのは、君だというのに。
体中に走る赤黒い施術痕も、ズタズタにされた心臓も、それでも屈しない心も、全部、赦されるべき証なのに。
「…ひば、」
ねぇ、何度言えば、わかる?
「僕は橘以外いらない。橘じゃなきゃ、欲しくない。…ねぇ、わかってるの?」
そうして無数の傷に今にも飲まれそうな、けれど折れることを知らない、「君」が欲しいのに。
「真鶸なら心配いらない。この先なにか不具合が起きたとしても、僕がなんとかする。…だから、」
その馬鹿みたいに小さな体で、なにもかも欲張って背負わないでよ。
「…だから、」
そこで途切れたのは、躊躇いがちに触れてきた指のせいだ。
いやに温かいその指はお世辞にもきれいとは言えない。
涙ばかりしてきた、罪深い指。
(でもね、橘)
そうして僕に触れてきたのは、君だけだった。
「…どうしたらいいか、わからない」
曖昧な表情が、俯く。
わからなくていいよ。
難しいことなんか言ってないでしょう、馬鹿だね。