AEVE ENDING
しかしここは西部箱舟の末端だ。
生徒達がごった返す中央部とは、正反対に位置する。
元気良く挨拶したのはいいが、あまり効果はないと思われた。
「…馬鹿が見える」
「半端なくウザイ」
それぞれの感想は全く以て当然の呟きだと思われた。
あんなハイテンションな人間がこの衰退した世界に存在しているとも思えないくらいだ。
「…おやおやあ?」
頭が空っぽそうな金色ワカメがこちらに気付く。
トパーズの眼が無駄に煌めいて、気持ち悪い。
「アナセース!ニッポンの生徒発見シマシタ!ラヴァーズ!ベタベタ!」
もはや日本語なのか英語なのかわからない。
「アナセス…?」
しかしワカメが叫んだひとつの単語には、聞き覚えがあった。
『米国が誇る世界最高の神、盲目のマリア·アナセス』
「愚か者の名だね…」
雲雀がぽつりと吐き出した。
轟々と鳴り止まぬ風と音に、髪を翻弄されながらヘリを見上げれば。
「…おやめなさい。彼は修羅、ですよ」
ぽつり。
囁き声は耳に甘美に届き、否、この耳を割く喧騒の中で何故、その声が届くのか。
「―――…、」
凛とした声を耳にした途端、全身から血の気が引くのがわかった。
雲雀と同質の清流。
雲雀と同質の業が肌を刺すように伝わってくる。
どくり。
得体の知れない不審感と不安が、倫子の心臓を無駄に跳ねさせた。
「とにかく降りましょう。神を高みから見下ろすなど、失礼です」
流暢な日本語はそれはそれは美しく語られ、その言葉に従うようにヘリはどこかへと移動し、倫子達の前から消えてしまった。
「君たち、また後でネー!ヨロシクー!」
去り際、再び馬鹿が叫ぶ。
どくりどくりどくり。
ポンプ式の核は無駄に力強く波打ち、首筋を伝った冷や汗に、それほど自分が緊張していたのを知る。
強ばった体を解すように雲雀を見れば、目があった。
―――どくり。
「…なにさ」
打ち震える体が情けなく、誤魔化すように睨みつければ。
「…続きは、後でね」
予想外の発言に白目を剥きかけた。