AEVE ENDING
「真鶸、これはね、」
「あ、蚊が」
バシーンッ。
「はがああああっ」
たらり。
「まっ、また血が!倫子さんしっかりしてください!倫子さん…!」
たらー…。
「はいはーい。君達忘れてるみたいだけど、ここ医務室だからさ、シーッてしないとね。こらこら雲雀くん倫子を叩かないの。真鶸くんもいちいち慌てなくていいからね。ほら出て行きなさい。アメリカさんがお待ちよ。いや今のはアメリカ産じゃないよ。さんだよ、ゴトーサン風邪薬のさんだよ、あれ、違う?奥田さんのさんだよ。ほらー、早く行って行って」
奥田の間延びした声に眉をしかめる。
アメリカサン?
「やっぱり、さっきの馬鹿が米国のアダム親善使節達だったんだ」
ヘリコプターから身を乗り出していた金髪ワカメが蘇る。
「式典の代わりにダンパするらしいよ?ダ、ン、パー」
奥田が緑茶を注ぎながらにやにやした。気持ち悪い。
「ダンパ?」
その緑茶を横から引ったくり首を傾げれば。
「…ダンスパーチー」
涙声で答える。
同時に立ち上がった雲雀が、扉を開けた。
「真鶸、橘、行くよ」
「はいっ」
駆けていく真鶸の背中を眺めながら、倫子は奥田を見た。
(…真鶸は、大丈夫だと思う?)
紛い物のアダムである倫子や真鶸は、アナセスという巨大なアダムに近付いただけで、余波を喰らい、ひとたまりもない。
(…お前よりずっと精巧に手術されてるから大丈夫よ。それにアナセスは力の抑え方を知ってる。雲雀くん同様、ね)
平然と横にいたところで、雲雀が力を解放すれば倫子は塵に等しい。
―――私にとって、一番の毒は。
(…変なこと考えないで、行っておいで)
後押しされて、ねぇ。
「…あんたが望んでいたのは、これだったの?」
あのセクション開始の日。
『倫子のパートナーは』
私と雲雀をペアにしたあんたの意図は、なんだったのか。
「…行きなよ、倫子」
奥田は、答えなかった。
ただ曖昧に、やはり出来損ないの笑顔を浮かべて、倫子を送り出す。
(…もう、そんな顔しなくていいよ)
囚われているのは事実でも、もう悔やんではいないから。
罪悪に一番囚われてるのは、誰かな。