AEVE ENDING
雲雀が完全にバスルームへ入ったのを確認し、ひとりになった倫子はゆっくりと肩を震わせた。
「ぷすす」
作戦成功である。
かの「雲雀様」入浴シーン秘蔵写真。
一枚千円…いや、二千円でも売れるに違いない。
距離を隔てた微かなシャワー音が倫子の耳を擽る。
水も滴るなんとやら…なんとやらは失礼か。
水も滴る金のなる木。
「ケケケ」
アミから借りたポラロイド片手に、倫子はいざ覚悟を決めた。
気配を消してバスルームへと近付けば、聞こえる聞こえる、シャワーの音。
(ぷぷー!雲雀サマのヌード写真なら五千円も夢じゃない…)
なにせあのカリスマ性だ。
男女関係なしに売れるに決まっている。
なんて素晴らしい市場。
(…やべ、涎でてきた)
勿論、雲雀の裸体に対してではなく、手に入るであろう大枚に対してである。
サァアアアア…。
スモークガラス越しに見える雲雀の姿に、笑いが止まらない。
声を立てないよう、気配を消すよう、四つん這いになって床を這い進む。
とはいっても、どこそこ大理石造りなものだから、よほどのことがない限り音は立たないだろう。
さっきチェックした時に確認済みだが、バスルームも相当な広さを誇っていて、シャワーノズルの位置はドアから見て真正面。
つまり扉に背を向けてシャワーを浴びる形になるので、バレる心配もないし、最低限の雲雀のプライバシーは守れる。
準備は万全。
倫子は勝手に浮かぶにやにやを我慢することもなく、バスルームのドアをこっそりと開けた。
僅かな隙間からでさえ、むわっとした湯気と爽やかな空のような香りが漂ってくる。
ひたひたした湿気の向こう、浮かび上がるシルエット―――これでわんさか金儲け!ヤッホゥ!
「―――なにしてるの」
ポラロイドを構えた時だった。
四つん這いだった倫子の背中に冷ややかな声が落とされる。
いつの間にやらバスルームのドアは全開で、倫子の視界には、細く透明な白磁の足首。が、二本。
「…なに、してるの」
再び掛けられた声。
しかし倫子は顔を上げられない。
(だって、顔を上げたら、顔を上げたら、見えてしまう…!)
なにせ今、雲雀は全裸。
幾ら処女だからって、男になにが付いてて女になにが付いてないかくらい知っている。