AEVE ENDING





「兄様、もしかしたら」

倫子がアミ達と話し込んでいるのをよそに、人塊を見渡す真鶸が不安そうに指を噛んだ。

その曇った表情でこちらを窺う。
なにが言いたいかは、雲雀にはわかっていた。


「父様と母様も出席なさってるんじゃ…」

政界でもそれなりに高位に就くふたりは、箱舟連盟と政府との橋渡しも勤めていた。

つまり、この新制度交流セクションを企てたのもあのふたりである可能性が高い。


「…だろうね」

見渡す限り見えはしないが、気配ならある。
きっとこの人混みの中に紛れているのだろう。


倫子を見る。

友人達と笑う倫子は相変わらずどこか抜けていて、どこにでもいる凡庸な少女と変わらない。


―――変わらないのに。



(橘にしてみれば、厄介極まりないかな…)

なにせあのふたりは、倫子の天敵とも言える相手だ。

あのふたりがいなければ、彼女は傷付くこともなく、今も郷で家族と幸せに暮らしていただろうに。



「…兄様、大丈夫ですか?」

考えに耽っていた雲雀を、真鶸は不安げに覗き込んでいた。


「僕はね」

どちらにせよ、鬼門にあるのか。

「…橘を呼んできて。ここは場所が悪い」

言えば、素直に従う真鶸の背中を眺めながら、延長上の倫子を見やる。

自然に笑みを漏らすのに、その内側は腐り始めているのかもしれなかった。



(ふたりに会えば、どうなるか…)


―――庇うつもりはなかった。



(寧ろ僕は、彼らに感謝すらしている)

彼らの犯した罪が、雲雀に倫子をもたらしたのだ。


それは清流の如く清らかであり、だからこそ罪深い。
神に赦し乞う姿こそ不様なものだと嗤い、罵れ。


神は、罪人に焦がれた。




(初めから歯車なんて噛み合ってなかったんだ。僕もきっと、狂ってる)


屍と化したその体が愛おしい。







< 820 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop