AEVE ENDING
「…アナセス、時間だよ」
そう言って、彼女が控える部屋の扉を開けたロビンは息を飲むはめになった。
そこには、これでもかと美しく着飾った至高の女性がいたからだ。
産まれつきの白銀の髪は曲がることを知らず、天の恵みである雨のように真っ直ぐ地へと滑り落ち、そのたおやかな体を包む白磁の皮膚は輝かんばかりに煌めいている。
目が痛くなるほどの真白のシルクに透明なスパンコールが散った露出の少ない聖衣のようなドレスが、素晴らしく似合っていた。
盲目のアナセスはいつも瞼を降ろしているけれど、降ろされたその白い瞼はいつだってなにかを語りかけているのだ。
米国と日本國との親善大使を任された精鋭アダムチーム「マリア」のメンバー全員から崇拝される、神の姿。
「…ちょっとロビン、勝手に入らないで頂戴」
盲目のアナセスの身の回りの世話を自ら買って出たニーロが、怒ったように唇を尖らせている。
「ごめんよ。早くシュラに会いたくてウズウズしてるんだ」
ロビンは謝罪を口にしつつも、今にも踊り出しそうな雰囲気で肩を竦めて見せた。
そんなロビンに、アナセスがゆるりと微笑む。
彼女の口角が上がった途端、辺りの室温が春の陽気にあてられたように暖かくなった。
「焦らなくても、修羅は逃げませんよ」
穏やかな物言いは、いつだって誰にだって対等に向けられるもの。
―――美しい、アナセス。
優しいアナセス。
気高いアナセス。
至高の存在。
「アナセスの周りは、いつもキラキラしてるね」
うっとりと呟いたロビンが自前の金色を揺らしアナセスの手を取る。
その空気に溶けてしまいそうな手の甲に口付けを落としながら、笑った。
そんなロビンに答えるように微笑むアナセスが、ゆっくりと立ち上がる。
「行きましょう」
神と神の対峙に居合わすことができた奇跡に、心からの感謝を。
―――彼らはまだ、醜悪な罪を知らない。