AEVE ENDING
ざわつく波から少し離れた壁際にいる倫子に、真鶸が並ぶ。
「…あの、倫子さん、兄様から聞いたんですが…」
歯切れの悪い口調に首を傾げる。俯いた表情は見えない。
「どした?」
なにか話しにくいことなのかと促してやれば、意を決したように顔を上げた。
疑惑と不安に満ちた目。
「桐生先生が捕まったって、本当ですか?」
躊躇いがちに、けれど真実を知ろうとするそれは、真摯の矢だ。
(…桐生が、かかりつけの医師だったのか)
今までの会話から断片的に伺えた事実から、真鶸が桐生を慕っていたのだろうことは容易に想像がついた。
よもやその桐生によって体を創り変えられているとは思いもしないだろう。
「…本当だよ」
真実はそれだけではないが、一先ずは、と素直に答えれば、それを聞いた途端、目に見えて落ち込んでしまった。
「…真鶸、」
その綺麗な黒糸に触れ、無駄だと知りつつ、慰める。
桐生を庇う義理など、こちらには全くなかったが、落ち込む真鶸を見るのは偲びない。
仕方ない、と慰めようと口を開いた時だった。
―――ど
く、
ん。
「…っ、」
心臓が抑制されるような寒気が全身を襲う。
同時、辺りが一際ざわついたと思えば、ホールの正面、壇上に現れた人物に目がいった。
―――何故、煌めいて見えたのか。
ホールの照明など微々たるもので、まるでヒトではないなにかが降臨したかのように、たおやかな空気と光で空間が満ち溢れている。
しん…と静かになったホール内で、ただキラキラと煌めく、孤高の女性が。
「―――アナセス」
呟いた名は、光で私を押し潰すのか。
全員が全員、アナセスの目に見える筈のない後光に目を眩ましていた。
―――あの雲雀さえ、アナセスを見つめたまま微動だにしない。
(ひばり…?)
目を奪われているように見えたのは、錯覚であって欲しかった。
ほう、と溜め息が漏れる。
確認するまでもなく、横に立つ真鶸から。
「きれい…」
感嘆は、羨望。
触れれば罰が下されるだろうまでに美しく麗しいその姿に、誰もが。
(…気持ち悪い、)
この違和感。
支配される、どこまでも清純な空気に。
己とは全く違う生き物に、平伏させられる屈辱を。