AEVE ENDING
「コ二チハー!ニッポンの皆サン!」
いつの間に現れたのか、例の金髪ワカメがまたも元気一杯にそう叫んだ。
お陰で、アナセスに見惚れていた全員が正気に戻る。
真鶸はアナセスに興味を持ったのか、夢うつつにゆらりと人混みの最前列へと消えてしまった。
「…、」
壁際に凭れたまま、ずるりと床に尻をつける。
ゾッとする。
あれが正真証明のアダムだとしたら、このホールに集まる雲雀以外の全員が、アダムのなり損ないということになる。
圧倒される、「絶対感」―――。
雲雀と、対を成す者。
こんなに離れているのに。
(…私を苛むものは、なんだ?)
アナセスに見惚れる横顔が、視界から離れない。
(ひば、…り)
独白は、音もなく腹の中に消えていった。
「米国箱舟連盟から派遣された、ロビン、です。ヨロシクー」
意外とまともな自己紹介が耳につくなか、アナセスはやはり変わらず美しく微笑んでいる。
銀色に輝くような髪が眩しかった。
白磁の蕩けるような肌が甘く伸びやかに曝される。
閉じられた薄い瞼に、ひれ伏し口づけてしまいたくなるような、服従感。
「……っ」
ロビンの次にニーロという黒人女性がなにやら話をしているが、耳に入らなかった。
「マリア」のメンバーは他に二人いたが、アナセスの空気が強烈過ぎて思考が段々とまとまらなくなっている。
(…誰か、)
雲雀じゃなくていい。
寧ろ雲雀じゃないほうがいい。
(アミ、真醍、鐘鬼、奥田、ササリ、…真鶸)
く る し い。
「やはり君には、刺激が強すぎたようだね」
ふやけた思考に急にふり掛けられた声に、顔を上げた。
見上げて、見覚えのある顔を認めた途端、冷水を浴びせられたように一気に正気に戻る。
「オマエ、…」
雲雀に少しだけ似せた容姿に、狂いなく纏った礼服が憎たらしいほど男を清潔に見せていた。
この男ほど、罪深いものはないと、何度、何度、呪ったか。
その男―――、雲雀の父親は、いつもその微笑で倫子を惑わし、地底に墜とそうと画策している。