AEVE ENDING
「…久しぶりだね。以前、雲雀さんに挨拶に来て以来かな」
元気そうでなによりだ。
雲雀と同じ造りの顔が笑う。
年を感じさせない無駄に整った容姿はしかし、雲雀のようにきれいでないのは、知っていた。
(…私の体ん中と同じにドロドロだろう、オマエの中は)
「まさか桐生があんなことになるなんて思わなかったが、こちらとしては良かったのかもしれない。彼が捕まったお陰で、僕や妻が君の研究に関わっていた証拠は世に出ないことになった」
節くれだった指が伸びてくる。
しゃがみこんでいた体勢から一変して立ち上がり、その手を払えば。
「…変わらず豪胆な精神を持ち合わせているようだ」
ずるりと唇の間から舌が現れたのを見て、殺したくなった。
「…なんの用だ」
低く、牽制する。
無駄に広がった壁際の空間はまるで、倫子を閉じ込める檻だ。
こちらは話したくもないし顔も合わせたくもないのに。
いや、顔を合わせることすら、堪えきれない。
『…アレは醜い』
同じ空気を吸っていることすら、不愉快なのに。
「君に、忠告を」
小さく吐き出された男の背後、やはり銀燭に輝くアナセスが微笑んでいた。
(すべてのつみをゆるすかみのごとく、かのじょは)
カツリ。
高級そうな革靴が鳴る。
近付いてくる男を牽制するように睨んだところで、男はそれを柳のように流すだけ。
この人物ほど、倫子の殺気に慣れた者はいまい。
じわりと縮む距離に苛立ち、焦燥から雲雀を探す。
ここだけまるで別空間のように隔離された空気が、すべてを懐かしく思い出させた。
「…雲雀さんを探しているのかね?」
カツリ。
背後に滲む光が眩しい。
この男は瞼を閉じることも適わない光を背負って、私を潰そうとする。
「…君のような化け物がまさか神に焦がれるとは。全く、キチガイな世の中だ」
くたばれ。
「…私は、神に焦がれてるわけじゃない」
私が、私が望むのは。
『僕は神じゃないよ』
『知ってる』
―――雲雀。