AEVE ENDING






「…イヴ?」

金髪の男が訝しげにこちらを見ていた。

一歩一歩近付いてくる倫子を警戒するように、アナセスを背後に庇いながら。

―――盲目の真白い睫毛が揺れることなく、私を見ている。



視えているのだろう。

美しい人。
麗しい人。
清らかな人。

敵わぬ、神の御霊。


(お前には、私の全てが)






ずるり。



「…ひっ、」

男が恐怖に嘶く。
いつから、こんな不様な男になったのか。

「…お前はいつも、私を見てたね」

あの無機質な眼で。
見下していた、いつも、囚われたように。


「…愛玩にしたかったんだろう。お前はいつも、そんな眼で、私を見てた」

それは桐生とは違う、異常な性癖だと気付いたのはいつだったか。

「衰弱していく私を更に傷付けることに、意義を見い出していた」

体だけでなく心すら、再生できぬまでに砕こうとする画策に填まったのは何故だったろう。


(…どうして、もっと早く、)



「あの時、お前の喉笛を噛み千切っていれば、」

こんな姿、雲雀に見せることもなかったのに。






『こんなひとしらない』

『はやく、きえて』

『倫子なんて子、もう、うちにはいないのよ』



それだけが篝火のように私を照らしていたのに。

それだけが、私を支えていた唯一の柱だったのに。



「全てを奪われて、もう、なにも残ってない」

絶望はいつだって、私の横に腰掛け機会を窺っていたのだ。

引金を引いたのが、この男だったというだけ。




「―――あなた、」

甘い声が聞こえた。
やはり聞き覚えのある、その声色は。


「…あぁ、お前もいたね」

息子を守るために、私を鬼に差し出した女。

振り返れば、雲雀の母親が泣きそうな顔でこちらを見ている。

大勢の観衆達と同じように、今。

私を侮蔑した眼で見ていたあの頃のあなたはどこへ行ったのか。



(…もう、終わりにしよう)

―――疲れた。








< 827 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop