AEVE ENDING






ホール全体が水を張られたように静かだった。

波紋を起こすのは、ただ一人。




「…いい加減になさい、橘倫子」

気丈にもこちらに向く彼女の細いを折るのは容易いだろう。
過去、何度となく、その日を夢見てきた。



「何故、今頃になって、こんな…」

死んだと、思っていたのに。

―――そうだね、あんたの言う通りだ。




「死んだんだよ、もう」

あんた達が田舎から連れてきた橘倫子という女はもう、どこにもいない。


「倫子の皮を被った化け物が、代わりに産まれただけ」

化け物は、いつしかその皮を破り、息絶えるのだ。


「造ったのは、お前達だもの」

ぐしゃり。

壇上に上がってきた彼女の、その美しい絹糸を引き抜いた。
空気を裂くような悲鳴が上がり、頭部に滲んだ赤はどす黒く歪んでいる。


(あぁ、きもちいい…)

その悲痛な叫びが、傷みが、苦しみが、死の淵を知らぬ無垢な叫びが。


「桐生を盾にして、自分達だけは無事だと安心してた?」

引き抜いた女の髪を床に散らしながら、男の顔を蹴り上げる。
蛙を轢き殺したような声が、可笑しい。


(―――アァ、オカシイノハ、ワタシカ)






「オイコラ、君、なにして、」

金髪ワカメ―――名前をロビンといったか―――が、肩を掴んで制止した。


不愉快だった。

美しいままノウノウと生きていられるような奴が、軽々しく触れるな、と。


(…みんな死んじゃえばいいのに)

あぁ、違う。

(早く死んでよ、…倫子)



手を振り払えば、ロビンは気に入らないと鼻を鳴らした。

「君、ナニ?危険分子ってヤツ?どうでもいいけど、アナセスにそんな汚いもの見せないデヨ」


アナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセスアナセス、―――ノイズが、する。






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