AEVE ENDING




しかもさっき一瞬だけ見えたシルエット。
腰にタオルなんか巻いていない――マジもんの全裸である。

「橘?」

挑発的に名前を呼ばれたって見上げるのはできない。

だって、見えてしまう。
なにが見えるって、なにが見えるって、なにがってナニだろ!

限界。



「…、っぎゃああああ!」

慌ててバスルームの前から消えた倫子に、雲雀は性悪くほくそ笑んだ。

「馬、鹿」

シャワーの音に混じった嘲笑の一言は、倫子には届かない。
バスルームから飛び出して、倫子は迷わず自分の部屋へと直行した。
ポラロイドはベッドに放置。
逃げ場もなく、とりあえず柔らかなシーツにくるまって隠れてみる。

(マズイ…。コレは、かなりマズくね?)

ドクドクッと心臓が血潮を早送りしすぎて今にも壊れてしまいそうだった。


『なに、してるの』

雲雀の冷ややかな声が、ぞわりと甦る。


―――殺される…。

シーツにくるまって脅えるように自分の肩を抱え込むが、それでもガタガタと体は震えた。

(あの傲慢鬼畜サディストの報復…、拷問、アイアンメイデン、電気椅子…爪剥ぎ、…ぐぇえ)

浅はかだった。
今更気付いて後悔しても、もう遅い。



カチャ…。

背後でドアが開く音がした。
振り向かずともわかる、その強烈な気配。

ガタブルガタブル、シーツの中で怯える倫子に、「彼」はゆっくりと歩み寄った。
まるで獲物を追い詰めて愉しむような所為だ。
性質が悪すぎる。


「っ!」

ベッドの端が、ギシリと軋んだ。

びくりと大袈裟にシーツの塊が揺れる。
それを見下ろす玲瓏な男の口許には、獲物を追いつめた捕食者の笑み。

ギ。

倫子のすぐ顔の横に、白く細い腕がまるで刃のように立てられた。



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