AEVE ENDING
「キモチワルイキモチワルイキモチワルイ」
―――目の前の女のなんと不気味なことか。
ジャパニーズというのは皆こうなのか?
ロビンは戦慄に震える足を叱咤した。
(…ちがうなあ。こいつ一人だけオカシイんだ)
ゆらゆらと揺れるサイコキネシスの根源―――未だ詳細は解明されていないが、透視能力の発達したアダムにはそれが見えるという―――が、ここまで定まっていないアダムは初めてだ。
いや、本当にこれはアダムなのかすら怪しい。
既に正気は逸しているのか、虚ろな目はどこか退廃的でなにより、何故、ここまで感情を剥き出しにするのか。
(憎悪?…違う、あぁ、キモチワルイ)
理由はわからないが、女に先にやられた二人は見知っていた。
ジパングで一番有名な年若いアダム、修羅の両親で、箱舟連盟関連で主に世界的に活躍する敏腕外交官夫婦だ。
この留学の話を持ち出したのも、確かこの二人だと聞いている。
バケモノ女は俺の背後に庇うアナセスを眩しいものでも見るように目を細め、しかし胡乱な目付きはかつてないほど怪しく鈍っていた。
何故、か、彼女は爛れた皮膚を思い起こさせる。
沸き上がるこれはかつて経験したこともない―――畏怖、か。
「…キモチワルイ」
ずるりとこちらへ運ぶ足は、今にも骨を吐き出し肉は溶けてしまいそうなほど危うい。
なんだ、この生き物。
「…ナニか言えよ、オマエ、ナにを、」
死人を前にした気分だ。
こんな気色悪いもの、一秒だって長くアナセスの目に曝していたくない。
なにより心で世界を視ているアナセスには、肉眼の俺よりずっと酷く醜く映っているだろう。
ゆらりと上げられた視線に、意味もなく心臓が痛んだ。
飽和しそうな眼球は悲しげで、なにより愚昧ですらある。
己は愚かだと自覚がある、聰い者のように。
小さな唇が開かれて、小さく。
なにもしないよ、おまえたちには、なにもない。
ずるり。
引き返された足は、再び外交官夫婦へと向けられた。
女性の皮膚を毟り取った爪先は赤く染まっていて、酸素に触れて赤黒い。
気絶した人間に更に暴行を加えようというのかと口を開いて―――。
「まだ、続けるのですか?」
凛とした愛しい声に遮られた。