AEVE ENDING





「…アナセスは確かにきれいだけど、盲目です。あなたに、彼女の辛さがわかるかしら」

背後に控えていたニーロと名乗った女性がそう抗議した。

意味を履き違えた、馬鹿馬鹿しいもの。


「辛い?悲しい?目が使えないことが?幸せだけど、幸せじゃない?」

吐き気すらする。
自らの腹の底から沸き上がる黒い煙の行方を、塞ぎようがない。

私に触れようとする白い手が、憎らしい。

―――あんたは本当の穢れを知らないんだ。



「無知な神様」

吐き捨てた言葉はからりと音を立ててロビンにぶつかった。
崇拝する女神を蔑ろにするその物言いに、無礼だと息を巻く。


「あんたに、私の醜さなどわからない」

なにも知らない他者に、罪深いとたしなめられて何故、すべて殺さずにいられる?

本当に、抹消したいのは。


「…それでも、いけません。憎しみに飲まれてしまいますよ」


憎しみ?

違う。

そんなんじゃ、ないんだ。



「可哀想に…」

伸びてくる。
私を腐らせる光の触手が、伸びてくる。


―――パシリ。

気持ち悪い。




「…触るな」

その跳ねのけた手は、なによりも慈悲深く、罪深い。


「オマエェ!」

アナセスが傷付いた顔を浮かべたと同時、従順な犬が倫子に噛みついてきた。

なんて、醜い。

こんな純粋で綺麗なアダム達を前に、優しい感情など、なにひとつ湧かなかった。

あのまっさらなマリアを、心から妬むだけ。



あぁ、わたしはこんなにも。




「きたない」






ロビンに襟首を捻り上げられた。
至近距離で睨みつけてくる眼光は鋭く、まるで赦す猶予などないと言いたげに。

「アナセスの手を振り払うなんて、何様だよ、お前!」

苛立ちに駆られた、それは母国語か。
早口で巻くし立てられた言葉は理解できなかったがしかし、その怒りは充分に理解できた。



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