AEVE ENDING
―――パァン…ッ。
耳を裂くような、音。
膨らむだけ膨らんだなにかが爆発する瞬間の恐ろしさに、閉じた目を開ける。
「倫子、さ…、」
―――視界に広がったのは、その屍ではなかった。
ごろりと転がった黒服の男は微動だにしない。
死んだのかと疑問に思うも、ただ気絶しただけのようだった。
頭部から流血はしているが、大した量ではない。
混乱と混沌、狂気に満ちていた辺りは水を打ったように静かで、正面に立つ倫子は終始無気力だった眼球を見開いていた。
視線の先には、その手を掴む、雲雀。
なによりも清廉な気配が倫子の禍々しさを露も残さず融かしていくようだった。
触れられた倫子の手は震え、見る見るうちに揺らいでいく眼の膜は美しく煌めく。
―――まるで罪人を救う聖者のようだと、誰かが言った。
赦されるべきは罪状ではなく、橘、貴方なのだと。
「雲雀、さま、」
信者が神の名を口にする。
倒れた男はとくりと血を流したまま微動だにしない。
加減したとはいえ、雲雀の一撃を喰らったのだからそうそう早く目覚めることもないだろう。
溜め息すら憚られる静かな空間で、欺瞞に満ちた視線が全身を突き刺し、傷という傷から血が滲み出そうな感覚。
(―――やめてくれ)
ぐらりと、世界が反転した。
「…、」
目の前に立つ雲雀と、視線は交わらない。
合わせない。
掴まれた腕が、震えてしまう。
はなせ、と口にしたいのに、心臓がひくひく跳ねたまま治まらない。
今まさにこの腕を掴む雲雀は、やはり涼やかな目許を揺るがしもせず倫子を見ている。
侵食していく。
見るな。
「…橘」
―――呼ぶな。
―――触るな。
「―――…っ、」
振り払った手は簡単に離れて、自分から突き放したくせに泣きたくなる。
いやだいやだいやだ。
(もう、無理だ)
汚い、私は。
雲雀と真鶸の両親を殺しかけて、そしてまだ足りないと、疼く細胞が。
相応しくないと、云っている。
―――頼むから。
「…見るな、」
これ以上、惨めな思いなどしたくない。
褪めた視線など、いらない。
もうなにも、欲しがらないから。
幸せになどなれる筈もなかったのに。
(安寧を望んだ私がなにより、罪深いのか)