AEVE ENDING
(……これは、まずい)
頭までシーツを被っていても、自分の真上に影が出来ているのが気配でわかる。
(…キレーな指)
視界に映る、真っ白のシーツとそれに同化してしまいそうな程、白鮮やかな美しい指。
節くれだっているのに、長くてほっそりして見える。
柔らかな、女の人のような指。
けれど、その強烈な存在感は女性では持ち得ない。
「それで、なにをしてたの」
その綺麗な指に、力が掛かる。
体重が掛けられた細い腕に浮かんだ澄んだ血管が、倫子に底冷えするような恐怖を与えた。
「答えて。…なにを、して、いたの」
耳朶でくつりと鳴いた喉元が、触れる。
倫子は声もなく悲鳴を上げた。
か み さ ま…!
「あの、あの、お背中、お流ししようう、かな、なんて。テヘッ…どあ、ちょ、ィッ…でぇぇえええ!」
舌を出してテヘッなんてしなきゃ良かった。
背中に掛かる激痛に腹が唸る。
丁度背骨に沿うように膝を落とされ、背骨の節を狙って体重を掛けられている。
膝で、膝の骨で、あの、ちょっと、背骨、折れませんかねこれ。
ねぇ、コレ、ちょっと!
「…もう少し、イイ声で鳴けないの?」
―――橘の変態。
耳に直接ふきかけられて、背中はギシギシ軋んだまま。
「…っ、ぐ、っ」
いい加減、背中から降りろ!
そう叫んでやりたいのに、肺を圧迫されて叫べない。
今より更に体重をかけられでもしたら、肋骨と背骨が折れて肺を突き破る。
それを平気でしかねないから、怖かった。
「もっと本気で抵抗したらどう?口先ばかりで、情けない」
馬鹿にされていた。
力ずくで跪かされて、ボロボロにされる。
「…っ、」
見えないけれど、頭上のくつりくつりと嗤う口元が憎らしい。
馬鹿にすんな。
「――の、ヤ、ロ…!」
もがいた腕を無我夢中で振り上げた。
雲雀の強固な腕を薙払い、膝と背骨にほんの少し隙間が空いた瞬間、身を捩って雲雀の檻から素早く逃れる。
勢い良く起き上がり、ゆっくりと体勢を戻した雲雀と向き直った。
愉しげなその表情を確認して、腹立たしさを再確認する。
「―――、」
息が鋭く出れば、体は勝手に動く。
与えられる痛みには、必ずやり返せと教育された。
(…いつか、殺すために)
この男には、絶対に敗けたくない。