AEVE ENDING
「久しいな、バケモノ」
ホールから独房へと連れられて、すぐ。
現れた男の名はとうの昔に忘れてしまった。
否、名前など最初から知らなかったのかもしれない。
実験体当時、雲雀の父に連れられて「試験体」を見学にきた政界人のひとり。
『―――なんて醜い…、不愉快だぞ』
偉そうに倫子を見下した男の眼にはしかし、嫌悪というより不純な興味の色。
気味が悪かった。
この腐りかけた体に欲情するオトコというものが、心底理解しがたかった。
『…コレは、声は出るのかね?』
雲雀の父も相当な悪趣味だったが、この狸も負けてはいなかった。
今思えばこの台詞は、倫子と会話できるかどうかというより、倫子が「鳴ける」かどうかを確認したのだろう。
(反吐が出る…)
無菌室で極彩色のコードに繋がれ、剥き出しの皮膚には未だ塞がらぬ傷が走り、腫れた瞼と唇の、醜い小娘と一度戯れてみたいと、男は言うのだ。
「…あんた、悪趣味は相変わらずだね」
サイコキネシスを無理矢理抑え込む特殊加工をされた鎖が揺れて、カシャリ、打ちっぱなしの無機質な床に擦れた。
「フン、その生意気な口は変わらぬか」
品のいいフォーマルスーツに身を包もうが、その中身は腐った魚の臭いがする。
男は無闇に近付こうとはせず、ただ独特の入り口に立ちながら倫子を値踏みしているようだった。
「随分と見れる体になった…。当時は直視できる容姿ではなかったが」
興味など、失せてくれればいいのに。