AEVE ENDING







回廊に響く雲雀と、真鶸の靴音。
目的地は倫子が捕らえられているだろう独房だった。


「あ、ひばりーん」

そんな時、後ろから呼び止める間延びした声に雲雀は深く溜め息を吐く。
真鶸がいなければ、完全に無視しているところだ。


「…なんの用?」

振り向いてみれば、東部箱舟保健医のササリの姿もあった。
彼女は奥田の隣りから一気に距離を詰め、雲雀を見る―――彼女は雲雀より背が高い。



「倫子は」

どこか鬼気迫るそれは、先程のホールでの出来事を知っているからか。

「…あっあの、兄様を責めないでください!兄様は、兄様なりの考えがあって…!」

真鶸が雲雀の擁護に走るが、しかしササリと奥田は不愉快げに眉を寄せて見せた。

「雲雀くんに怒ってるわけじゃないわ。私達が言いたいのは」
「―――悪趣味な狸ジジイのコト」

奥田が咥え煙草を揺らしながら雲雀の疑問に答える。


たぬき?



「パーティーに賓客としてきてるって聞いてね。昔、倫子を抱き損なった変態オヤジ」


―――は?


「だ、だき?」

真鶸が混乱したように目を見開いた。
嫌な言葉が出てきたと、不愉快を禁じえない。

押し黙った雲雀と真鶸を気遣うように、或いはこの場にいない倫子を気遣うように、ササリが口を開いた。


「…まだ倫子が研究所にいた時にね、貴方のお父様が連れてきたのよ」

政界でも特に毛嫌いされていた男で、その悪趣味もさることながら、地位の為ならばどんなえげつない真似も平気でしたという。



「…あぁ、噂は聞いてる」

直接の面識はなかった。

故意に避けていた、と言ったほうが正しい。
気配だけで、嫌悪するような腐臭が漂っていたから。


「その狸がさあ、ボロボロの倫子に欲情しちゃってね。研究所の人間はそりゃもう引いたっつうねー」

奥田の間延びした声が酷く癪に障る。

嫌な予感がぞわり、胸を掻いた。





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