AEVE ENDING







「倫子が箱舟に収容されてからも気色悪いラヴコールが耐えなくて。…嫌がるから、倫子には知らせてないんだけど―――」

ササリがさも不快だと唇を噛む様をどこか遠くで見る。


「…っあ、にさま」

真鶸が不安に濡れた声を出した。
嫌な予感は、喉先までせりあがろうとしている。


「…それで、その男は今、どこにいるの?」

問わずともわかっていながら、問わずにはいられなかったのは。



(――――…っ、ぁ、あ)


耳に届く微かな悲鳴が嘘だと、思いたかったのかもしれない。


―――橘。




「兄様…っ」

真鶸の悲鳴を最期に、その場を離れた。


―――無意識にテレポートした先で目の前に広がった光景を、雲雀が忘れることはない。




「…、ひば、り」

血が垂れる唇がそう紡いだ。

無機質な独房は狭く、しかし天井だけは有り得ないほど高い。
その高い天井の真下、小肥りの半裸の男に拘束された、倫子の姿、が。



(―――…、)

凌辱された痕はない。

ただ無惨に破れ落ちた衣服は、その赤黒い皮膚を隠す役目を果たしておらず、鎖で拘束された片脚には青い手形が這っていた。


「…お前、は」

涎を垂らした男が肩越しにこちらを見る。

その左手は倫子の剥き出しの肩を抑えつけていて、その脂ぎった皮膚は採光に照らされ鈍く光り、生温い妖しさばかりが増していた。

嫌悪の涙を湛えた倫子が、怯えたようにこちらを見ている。

男は右手で掴んでいた倫子の片足首を更に持ち上げ、にぃまりと雲雀と目を合わせたまま、嗤う。

嫌がる倫子をよそに、雲雀の存在をよそに、愉しむ気、であるのか。

―――まるで見せつけるように。




「…っ、」

ふふう、と生臭い息が檻のなかに充満した。


「バケモノ、貴様に男を受け入れる穴はあるか」





―――ころしてしまおうと、おもった。



赤く染まった視界はどこか懐かしく、古い記憶を微かに思い出させる。





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