AEVE ENDING
ヒュッ…!
素早く突き出された倫子の右腕を軽く左手で受けて、雲雀は見下すように笑む。
(へぇ…)
野良犬風情が、なかなかどうして、イイ眼を向けていた。
(殺意を抱くことに慣れているのか)
面白い。
目の前の獣は、まるで雲雀の脈の流れを辿るように視線を揺らす。
感情の滲む、喰らいつく一瞬を狙う、捕食の眼。
―――ねぇ。
「どこで覚えてきたの?」
風を切る音が、掴まれた左手から聞こえた。
骨が折れる寸前にその細い腕を叩き落として離れる。
掴まれていた場所がじわりと傷んだ。
(小さな身体に似合わない、馬鹿力と瞬発力…)
猪のような直線的な動きで突進してきた小さな頭を片腕で鷲掴みにする。
真正面から下へ殴り付けるように掴んだから、舌を噛んだかもしれない。
けれどそんなこと、些細なことだ。
(…ねぇ、橘)
誰に教えてもらったの?
「ひとの、ころしかた」
鷲掴んだま勢いよく身体と交差させてボールのように投げる寸前、耳朶に口を付けて、傷付けるために、囁く。
ほら、傷付いてよ。
「……っ黙れ!」
煽るように微笑んでやれば、倫子は怒りを露わにした。
悲鳴じみた叫びを上げながら、勢いよく投げ出された身体に無茶なブレーキを掛ける。
ダンッ、と素足が床を擦り止め、一瞬だけ視界が揺れたような錯覚。
(―――いいね、その顔…)
獣に牙を剥かれるのは、大好きだ。
身の程を知らず、立ち向かってくる弱者の姿は愚かで儚く、美しい。
その必死な姿を、無碍にへし折るのが雲雀の一番の「好き」、だった。
『───我が身に畏怖する者など弱者以下、虫螻以下だ』
幾田桐生の言葉だ。
他人の言葉に左右されるわけではないが、まさしく、自分が考えていたものと全く相違ない。
雲雀にとって他人は自らの強さを証明するための道具であり武器であり、「それ」との間で行われる殺戮は自らを誇示するパフォーマンスに他ならない。
娯楽であり、証。
愚者を虐げるのが好きだった。
幼い頃から、それは変わらない。
(「あの人」がよく言っていた。僕に流れる血は人のそれではなく、血肉を貪る「神」のそれなのだと)