AEVE ENDING
―――ちろり。
薄桃の唇から真っ赤な舌が覗く。
その彩飾はまるで熟れた果肉が皮を破って果汁を滴らせているように、淫靡だ。
濡れた夜色の髪の隙間からこちらを見上げる長い睫毛と、まんまるの黒丸はきらきらと凶暴に光り、倫子を射竦めようと機会を窺っている。
ぞくり。
背筋に不快とは違う悪寒。
頭の中をループするちぐはぐな雲雀の言葉を、必死に繋ぎ合わせようとしている倫子をよそに、雲雀のその今にも崩れ落ちそうな舌は容赦なく蠢いている。
「…っ、」
心臓がひくりと震えたのは、その濡れた赤が乳房の皮膚を擽ったからだ。
ずるり。
真上から絶え間なく注ぐシャワーの流域をそこで留めるように舐めて撫でてすすりしゃぶる。
柔らかな上下の唇に、肉を包む薄い皮膚を引っ張られ、心臓から悲鳴が上がりそうになった。
「…っ、ひば、り」
名に乗せた制止を受け取ってもらえるわけもない。
濡れたシャツ越しに雲雀の肌が透ける。
霞むように透明なそれはシャワーの水により、少し青ざめていた。
赤くなった指先が戯れに皮膚を転がり、辿り着いた先、腰骨を固定する。
軽く添えられただけのそれは、しかしかじかんだまま動けない体には充分の拘束だった。
なにをされるのか―――考えたくもないが、否応にも想像させられる不実な指先に憎らしさすら、感じて。
「…こわい?」
臍の窪みに鼻先を寄せたまま、雲雀が呟く。
直接、腹の中へ響く麗しい声が子宮を撫でた。
―――ずきり。
鋭い凶器で一突きされたような衝動が全身を駆け巡る。
雲雀にすら、気付かれたかもしれない。
こわい?
これは、さっきの意味合いとは違う。
(―――僕が怖い?)
そうじゃなくて。
ドクリ。
「全部頂戴、僕に」
鼓膜を伝い脳を蕩けさせるには充分に艶やかな声。
黶すらない真っ白い肌。
傷跡なんて残らない。
―――純白。