AEVE ENDING






『―――神に呪われろ、バケモノ』




「いやだ…」

俯いたまま、舌足らずにそう繰り返す倫子を、雲雀はただじっと見ていた。

真意を読み取るように、倫子を、傷付けたりしないように。

いつからこんなに優しくなったんだ、と、痛む胸で倫子は考えた。

(―――いつから、じゃない)

雲雀は、はじめから優しかった。

周囲のアダム達のように、薄っぺらい約束だけで判断したりしなかった。

いつだって凶暴に、飾らないまま、殻に閉じ込もる倫子をそこからひきづりだそうと、してた。



(…いつだって、)


―――「私」を見ていてくれたのは、雲雀だけだった。





「…橘」

ゆっくりと立ち上がった雲雀が、視線を逸らさないよう、倫子と視線を合わせる。

たゆたう頼りない視界に、泣きたくなるくらい綺麗な顔が映って、更に泣いた。


「…いやなの?」

いやじゃない。

いやじゃないけど。


「…いやだ」

いやなのは、あんたを汚してしまう恐怖に飲まれている、弱虫な自分自身。

「泣くほど、怖い?」

今まで聞いたこともないくらい優しい声色が全身に浸透して、強ばった体を弛緩させていく。

泣いちゃうのは、怖いからじゃないよ。


「…こわい」

それでも、どうか騙されて欲しい。

あんたを穢すことだけが、こわい。



「…ごめん」

柔らかな謝罪を耳に、閉じていた瞼に口付けられた。

(…この殷懃な男が謝るなんて、私は相当、酷い顔をしていたのかもしれない)




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