AEVE ENDING
楽しげに笑う倫子を前に、雲雀はやっと安堵する。
そんな自らに驚いてばかりの最近などには、もうとっくに慣れた。
ペタペタ。
油断しきった脚がタイルを蹴る。
「雲雀、髪、拭いてー」
真っ裸のまま顔を寄せてくる倫子に、内心で深く溜め息を吐いた。
男心をいまいち理解できていない愚か者に多少の呆れは感じたものの、未だ知らぬなら知らぬで、良い。
今にじっくりと教えることになる。
(…先は長い)
「…お腹、空いた」
先程まで泣いていたなどと誰が思おう。
赤くなった目許すら偽りではないのかと疑ってしまうほど、暢気な声がタオルの下から聞こえる。
「…、」
いやだ、と泣いた真意はわかっている。
どうせまた己の醜さを前に泣き言を並べていたのだろう。
それを覆し、無理に突っ走るのもひとつの手だが、なにより相手はそういったことには疎い。
疎い上に初めてなのだから、男である己がどうこう運んでいい問題でもないと雲雀は判断した。
なによりそれで傷付くのは、男より女である。
痛みつけるのも泣かせるのも大好きだが、今あの場で倫子の「厭」を無視して突き進めば、先は見えていた。
望む望まない以前に、彼女を手放す気など本人の意向すら無視する勢いでないのだから、今更、嫌われようがどうなろうが知ったことではなかったが、ただ少し憐れに思っていたのかもしれない。
なにより彼女が自らを疎う原因は、第三者の介入とはいえ、言わずもがな自分だ。
それもあって、あまり無理を強いたくもなかった。
(…言い訳がましい)
結局、ぐだぐたとなにを言ったところで、目尻を真っ赤にして泣き崩れるあの不細工な顔を見るとどうしようもなくなって引き下がってしまう自分がいるというだけのこと。
ゆるゆると傷付けぬよう拭き上げる髪質は相変わらず女のものとは思えぬほどみすぼらしくボロボロであったが、その原因は彼女にあるわけでないし、なにより彼女の髪だ、事の外、触れる指に神経を傾けた。
その項に走る傷すら、愛しい。