AEVE ENDING
『―――バケモノ』
本人が望むでもなくこれに付き纏うその名称は、あまり意味をなしえていないように思える。
仮に本当に倫子がバケモノであったとして、こんな愛でるに値するものがバケモノならば色々な意味で容易い、と雲雀は脳内でのろけた。
なにより、なにが倫子を形容していようが、己には関係ない。
世の汚濁が倫子の血であるならそれはそれで構わないし、世のヘドロが肉となっているならばそれでもやはり構わない。
―――「橘倫子」であるなら、それは「橘倫子」なのだ。
そこには可もなく不可もなく、以下も以上もありはしない。
ただ問題は、その体にあった。
継ぎ接ぎだらけの体はあまりにも容易に壊れてしまいそうで、なにより、手加減を知らぬ自分の暴力にどれほど耐えうるのか。
傷が開けば痕は更に深まり、美しいと言えない体は尚更、彼女自身のしこりとなるだろう。
「…、」
タオル下の小さな背中に眼をやる。
歪に繋ぎ合わせた皮膚と皮膚は時に突っ張り合い、時に余り、本来なら一辺通しで繋がっている筈の滑らかさがまるでない。
自分と見比べてみても、やはり差異が有る。
無傷のヒトにすら羨望の眼差しを向けられるこの体とで、傷だらけの倫子が比較しないわけもない。
全く以て、こちらは気にしないというのに、だ。
「先は長い…」
その道のりは呟きの通り、相当に困難で長そうである。
そうして雲雀が無意識に吐いていた溜め息に、眼下の倫子が反応した。
辛うじてタオルに隠れた体を隠すように体育座りをするその半端さに、更に深い溜め息が洩れる。
「…、」
そんな雲雀を肩越しに見上げつつ、なにか言いたげに口を開いては顔をしかめて、また開いてはまたしかめてを繰り返す。