AEVE ENDING
「―――考え事して、私に勝てると思うな!」
目の前で獣が叫ぶ。
同時に繰り出された拳を受け止め、雲雀は乗っていたベッドから軽やかに飛び降りた。
倫子もそれに倣うようにほぼ同時にベッドから離れ、何度か跳ねる。
「っ、」
そして三度小さく跳ねて床に着地したと同時、雲雀に殴り掛かった。
拳の重みはやはり女の非力さが否めない。
けれどスピードに任せた素早さは、他者より鋭い。
けれど雲雀には、こんなニワカ格闘技など通用するわけもなかった。
雲雀は軽やかにそれらをかわすと、無駄な動きは微塵もなくするりと倫子の背後へと回った。
一歩、二歩、立ち向かってきた倫子の速さを利用して、たったそれだけで距離を詰める。
「っ」
攻撃が一発も、あたりもしなければ掠りもしない。
倫子は苛立ちを露わに舌打ちし、腰を捻って背後の雲雀に向き直った。
動きに合わせて視界を邪魔する髪の隙間から、冷ややかな瞳が覗いている。
「…反射神経は、合格」
素早くこちらの動きに対応する倫子に、その冷たい瞳は囁く。
「うるさい!」
上から目線の一言に、倫子は悪態を吐きながらも雲雀の腰めがけて蹴りを繰り出した。
軸足を逆にしたフェイク。
これなら、こいつの眼を騙せる―――。
(…っ入れ!)
ガシッ。
「……」
必ず入ると思った渾身の一蹴りは、呆気なく雲雀の右手に止められた。
足首を鷲掴みにされ、片足立ち状態の倫子はざんばらな睫毛を瞬かせる。
「…惜しかったね」
そう言いながら、当の雲雀は掴んでいた倫子の足首をへし折るが如く握り潰した。
「ぎゃっ」
血管を堰き止められ、足首から下がみるみるうちに嫌な色になってきている。死にかけの、紫。
「降参する?」
余裕の雲雀に、倫子の腸は煮えくり返っていた。
「誰がするか!」
「そう?」
まるで菩薩の如く穏やかで慈悲深い笑みを浮かべ、雲雀は倫子の足首を更に引き上げる。
そうなると、片足でギリギリのバランスを保っていた倫子は、当然、体勢を崩すわけで。
最悪な事に、背後にあるのはベッドではなく、大理石の床だ。