AEVE ENDING
「―――そんなこと言うの?」
釣り上げた口角はさも狡猾に弧を描いているだろう。
承知しながらも改めないのは当然。
倫子の顔色がどんどん青くなる。
タオルケット一枚纏っただけの無防備ぶりに今更気付いたとでも言うのか、合わせ目を握り、じり、と雲雀から後退った。
「…ま、まて」
なにを。
混乱しつつ吐き出されたそれは、身を乗り上げて倫子に覆い被さる雲雀を制止するもの。
しかし生憎、雲雀に従う義理はない。
背中を反らし逃れようとする倫子の股の間に脚を差し入れ動きを封じれば、焦ったように喚き出した。
待てに始まり止まれ動くな触るな止めろ止めろ止めろやめろ、近付くな、待て!
馬鹿馬鹿しい限りだ。
「…待てない。僕は発情期だから?」
我慢が効かないんだ。
肩を竦める演出もありで、わざと揶喩ってやれば、見る見るうちに不機嫌になる。
嘲弄されたのだと気付いた当人は、鼻にこれでもかと皺を寄せて憎々しげにこう吐き出した。
「…くたばれ」
面白過ぎる。
叶うならばどうか、変わらずにいて欲しいと、そればかり。
(…君はその身体を厭うているけれど、僕にとってそれが一番欲しいものであるというのに)
カチャ…。
負傷していた倫子の手当も済ませ外の騒動に一息吐けば、戯れていた一室に小さく響く物音。
戸を躊躇いがちに開けるそれに、先の騒ぎで敏感になっているらしい倫子が過敏に反応して顔を上げた。
息を飲む音が、聞こえる。
殴り飛ばした狸か、或いは合衆国のアダム達か箱舟の統括者か。
どちらにせよ、倫子も雲雀も責任からは逃れられない。
しかしジワリと染みる見知った気配に、倫子は安堵したように息を吐いた。