AEVE ENDING
弟である真鶸のあんな屈託のない笑顔ですら、雲雀は見たことがない。
『雲雀、それ頂戴』
『風邪、引くから』
『ねえ雲雀、もっともっと、話しをしよう』
下らないことばかり、口にする。
おおよそ凡人が雲雀に対してきかないような、口調で。
こちらが無下にしても三歩歩けば忘れてまた生意気な口をきく。
へこたれないで、進むことをやめない。
―――だから。
「…ああして笑っていられるなら、大丈夫だよ」
慰めでもなんでもない。
それは橘倫子の真実であり、現実だった。
強くはない。
弱くはない。
けれど、生きている。
消えることのない傷を負いながら尚、ただ生きるためにこの歪んだ世界で踏ん張っている。
だからこそ彼女は今、ここにいるのだ。
「…そうね、その通りだわ」
心底から得心したようなササリの声を無視して、雲雀は倫子から視線を逸らす。
愛情の起因、基因。
『眩しい』
いつか彼女が雲雀に対して呟いた言葉を反芻した。
(…眩しいのは寧ろ、)
胎内を焦がすこの感情など知らなくて良かった。
『燦々と輝く太陽に焦がれたヒバリはね』
「―――下らない…」
耳に馴染んだ逸話はまるで、現実と重なるように、蘇る。