AEVE ENDING
「まるでキリスト生誕の由来のようね」
ふと、黙考に水を刺された。
自分の足元に向けていた顔を上げれば、アナセスを寝かしつけていた筈のニーロがそこに立っている。
「盗み聞きはやめろよ」
「ごめんあそばせ。珍しくあなたが真剣な顔つきだったから、つい気になって」
精神系サイコキネシスに長けたアダムであり、アナセスとまではいかないが、ストッパーにより本来なら読み取れない筈のアダムの頭の中を覗くなど、彼女にとっては朝飯前だった。
特待使扱いのロビン達には、この日本の箱舟にて一人一部屋があてがわれていた。
この箱舟の真白の壁や天井は言わずもがな病棟を彷彿とさせるが、全室から一望できる景色はなかなかのものである。
ロビンは地平線に緩く沈んでいく重く暗い空を眺めているニーロを一瞥した。
「キリスト生誕って?」
先程、人様の頭の中を勝手に覗いて出た彼女の言葉に疑問を抱いたので、そのままそれを口にする。
「ロマンのない男ね」
大変スッキリしない台詞を返された。
年上で聰明な彼女に馬鹿にされることは多々あることだが、これはさすがに納得がいかない。
それを表すかのように眉を顰めれば。
「…マリアは処女でありながら神の子を宿したでしょう」
丁寧な説明が開始された。
「マリアがアナセス」
「シュラが、神よ」
なかなかの配役である。
「高潔なマリアと我々の父である神の子がイエスキリスト…。ねぇ、面白いじゃない」
言われてみれば確かに面白い。
ニーロの言葉通りに想像してみれば、まさにキリスト生誕の絵が現実に目の前で模される形になろう。
しかし、アナセスの兄的立場に位置する自分には少しばかり納得いかないこともある。
「…でも、問題が。シュラとアナセスは、セックスなしに子供は産めないんだぞ」
「当然よ。赤ちゃんはキャベツ畑から産まれるわけじゃないもの」
それはやはり兄として、なかなか辛いものがある。