AEVE ENDING
このまま後ろに勢い良く倒れてみろ。
後頭部強打で失神、ダサすぎる。
(耐えられるか!)
倫子は掴まれている脚を素早く曲げ、一足跳びで距離を詰めると雲雀の腕に掴み掛かった。
が、その華奢な腕はビクともしない。
一瞬でその場所を攻めるのは無理だと判断し、防御されていない頬に殴り掛かる。
バランスはとんでもなく悪いが、少しの隙が出来れば、いい。
「……ッラァ!」
「男勝りだね、攻め方もなにもかも」
しかし雲雀は相も変わらず玲瓏な笑みを湛えたまま、倫子の拳が頬に当たる前に足首を離した。
パッ。とチープな効果音が聞こえた気がした。
「ぅ、わっ」
予期していなかったわけではないが、ただ離されただけではなく、股を開かされるように弾き飛ばされた。
「…っ」
背後に倒れ込む危険はなくなったが、今度は横倒しだ。
ただで転ぶか、とガムシャラに腕を振り回す。
足首を離した状態のままの雲雀の指に、爪が掠った。
チリ、と爪先に微かな感触があっただけ。
(…クソッ!)
倫子は引力に逆らわず、そのまま大理石の冷たい床に倒れ込んだ。
凄まじい衝動と硬さに全身が強ばる。
しかし暢気に寝ている場合ではない。
倫子は跳ね上がるように立ち上がると、雲雀の次の攻撃に備えて素早く構えた。
「来い!」
気合いも新たに叫ぶが、雲雀は微動だにしない。
…あれ?
倫子が攻撃態勢を保ったまま首を傾げるが、雲雀はそんな倫子など眼中に入っていないかのようにだらりと殺気を消した。
「…え、なに?」
―――結局、ふたりの容赦ない攻防はそれでオシマイとなった。
拍子抜けした倫子も、毒気を抜かれたように警戒を解く。
訝しげにこちらを見てくる倫子には目もくれず、雲雀は自分の左手を舐めた。中指。
「まぁ、いいか」
ペロリと垣間見えた赤い舌が妖艶で、倫子は視線を気まずそうに泳がせる。
「…なにがいいわけ」
雲雀から逸らした視線を床に置いたまま、倫子は拗ねたように息巻いた。
結局、なにがどうなったのかわからない。
痛い思いをしたのは自分だけだなんて、ムカッ腹この上ないというのに。